設立から5年、震災遺児とともに歩む「みちのく未来基金」

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2016年4月22日

ロート製薬を含む4社が運営する、震災遺児のための奨学金「みちのく未来基金」。設立から5年目を迎えたこの基金において、関わるスタッフはどんな思いで活動してきたのでしょうか。現場の声を聞きながら、この基金の意義を考えてみます。

子どもたちへの進学支援こそ、真の復興につながる

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▲左から、カゴメ株式会社・西秀訓(にしひでのり)代表取締役会長、ロート製薬株式会社・山田邦雄(やまだくにお)代表取締役会長兼CEO、公益財団法人みちのく未来基金・長沼孝義(ながぬまたかよし)代表理事、カルビー株式会社・松本晃(まつもとあきら)代表取締役会長兼CEO、エバラ食品工業株式会社・宮崎遵(みやざきじゅん)代表取締役社長

東日本大震災の直後に設立され、5年目に入った「みちのく未来基金」。ロート製薬、カゴメ、カルビー、エバラ食品の4社が運営するこの取り組みについて、これまでの活動をまとめた記者会見が2016年3月10日に行われました。

震災によって、両親もしくはどちらかの親を亡くした子どもたちに対し、大学・短大・専門学校の入学金と授業料を全額給付する(上限300万円まで)のが、この基金です。該当する子どもは全員が給付を受けられ、返済も不要です。

全国から集まった寄附金の累計は25億円を超え、給付者数は5年目の現在では527名にのぼります。震災時にお腹の中にいた子どもも対象となるため、その世代が卒業する約20年後まで続く、長い支援です。

真の復興を成し遂げるのは、東北の子どもたち。「彼らが夢を追うために、専門的なことを学ぶ大学・短大・専門学校への進学支援をしたい」そんな思いから、基金は生まれたと言います。

発起人となったロート製薬の山田邦雄(やまだくにお)代表取締役兼CEOは、「震災直後、『何かしなければ』という思いで立ち上がりました。5年目を迎え、今は『行動してよかった』という気持ちです」と、これまでの歩みを振り返りました。基金を支える全国のサポーター(寄附者)に対しても、「こんなに多くの人が支援してくれる。日本人のすごさを感じています」と感謝を述べました。

5年のあゆみと、そこから見えた未来への課題

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▲ロート製薬・東北地域連携室に所属し、みちのく未来基金・事務局員として働く柴田春奈さん。

継続的な運営を実現するには、現地のスタッフも重要な存在。みちのく未来基金では、学生のサポートをきめ細かく行うために仙台に拠点を置いています。そこにロート、カゴメ、カルビー、エバラの4社から公募で集まった社員が2~3年の周期で出向し運営を担っています。

ロート製薬の柴田春奈(しばたはるな)さんも、2015年6月から現地で活動を行う一人です。どんな思いで東北行きの社内公募に手を挙げたのでしょうか。

「震災当時、私は大学生でした。就職してからは、営業で高齢者が多く住む地域に行くこともあったのですが、子どもが少ないことはやはり地域の未来にとって不安なことだと感じるようになりました。これから復興のためにさまざまなハードルを乗り越えなければいけない東北で、子どもたちを支援する活動に関わりたいと考えたんです」(柴田さん、以下同)

基金事務局の4社の社員たちは東北の高校を回り、各校の先生や進学を希望する震災遺児たちと面談するほか、奨学金の振り込みや寄附金の管理、寄附者への対応を行います。それ以外にも、「学校や周りの大人には話せない、みちのく生同士だからこそ話せることがある」という彼らの声に寄り添い、みちのく生が集まる交流イベントなども開催しています。

設立から1~2年は、「基金の存在を知ってもらうことが重要な活動だった」と柴田さんは言います。

「基金の設立当初は、活動についてあまり知られていない中で東北の高校を1校1校訪問し、基金の説明をして回りました。その活動を通して、校長先生や奨学金担当の先生方が基金の思いに共感してくださり、徐々に認知されるようになったのです」

高校卒業までは他団体の奨学金も含め、公的な支援は多いものの、高校を卒業した途端にこのような支援は一気に減ってしまいます。仮に支援を受けられたとしても、返済義務のある奨学金は、被災して何もかも失った学生やその家族にとっては負担の大きいもの。
みちのく未来基金では、経済面での不安を感じずに『夢に向かって思いっきり勉強してほしい』という理由で返済不要としました。

しかし、「5年目だからこその課題も見えてきている」と柴田さんは話します。

「震災遺児は、震災関連死などを含めると現在では約1800人ともいわれているんですね。彼ら全員の進学には、40億円が必要だと見込んでいます。長期の支援になりますから、たくさんの方にみちのく未来基金のことを知っていただき、支援の輪を広げていきたいです」

震災遺児は全国に散らばっています。震災以降に東北を離れた子どもは、基金の存在を知らずに進学をあきらめてしまう可能性も。それも踏まえて、柴田さんは「継続的な発信を続けていきたい」と今後を見据えます。

寄附が「未来への投資」となり、次の世代につながる

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みちのく生たちの中には、すでに学校を卒業してさまざまな道へと進んでいる子もいます。設立5年目を迎え、震災直後の一期生からは四年制大学卒業者も多数輩出されました。

みちのく生たちからは「震災のとき、避難所で優しくしてくれた看護師さんのようになりたい」「仮設住宅で子どもたちの面倒を見ていたことがきっかけで保育士の道を選んだ」などの声と共に、「今後、OB・OGとして活動に関わりたい」「初任給の一部を寄附したい」という申し出も。その言葉を聞いて、柴田さんはこの活動の意義を再確認したようです。

「『みちのく未来基金のおかげで社会に出られたから、今度は私が子どもたちに恩返ししたい』。そんなみちのく生の思いを知って、この基金に寄せられるお金は一時的な救済ではなく、未来への投資なのだと改めて感じました。全国からの寄附が子どもたちを支えて、それがまた未来の子どもにつながっていく。その循環が生まれ始めています」

基金事務局に着任してから10カ月。柴田さん自身も、活動する中で大切なことに気づきました。

「すべては人と人とのつながりなのだな、と痛感しました。みちのく生、学校の先生、サポーターの方々。何をするにも、根幹にあるのは“人のつながり”だと気づいたんです。これからも卒業生は増えていきます。彼らの今後の人生の支えとなるように、卒業生や現役のみちのく生、歴代のスタッフなども一堂に会するイベントを考えたいですね。そうして、このつながりを大切に育んでいきたいです」

今後も東北の未来をつないでいくためには、基金の輪を広げていくことが重要となります。

「震災遺児であればだれもが対象で、他の奨学制度との併用も可能というのは、民間だからこそできる取り組みだと思っています。同じ気持ちを持つ企業が少しでも協力していただければうれしいですし、最後の一人が卒業するまで活動を続けていきたいです」

▼みちのく未来基金
http://michinoku-mirai.org

文:有井太郎+プレスラボ

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