ものづくりは、ひとづくり――現場力を育てる改鮮隊活動が石巻・湊水産と出会って感じた未来

2016年6月10日

“工場の生き残りをかけて、競争に負けない強い工場へ”というスローガンの下に始まった、ロート製薬生産事業本部の改鮮隊の改鮮活動。彼らは自立した職場を実現させるために、さまざまな施策を講じてきました。 立ち上げから10年の時間をかけて、彼らが現場にもたらしてきた変化とは、一体どんなものなのでしょうか。上野工場の改鮮隊を務める阿部誠さんにお話を伺いました。

できることは全部やる、改善を諦めない「改鮮隊」

▲上野工場・改鮮隊の阿部さん

ロート製薬で「改鮮隊」が生まれたのは2005年のこと。 “QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期の略)を目指し、生産現場の“改善(主に製造業で行われている作業の見直し活動)”のサイクルを維持・継続させていくためのチームとして発足しました。

「一般的に、製造現場での見直し活動は“改善”の文字を当てますが、ロートの取組みは“改鮮”としています。これは“改善”と“新鮮”の組み合わせで、立ち上げ時のプロジェクトメンバーが『いつでも新鮮な気持ちで改善に向き合っていこう』との思いを込めて命名したものなんです」(阿部さん、以下同)

改善活動は多くの製造業の現場で行われていますが、ロート製薬の“改鮮活動”は一味違います。問題を見つける目を養う「気づき活動」、問題が見つかりやすい環境を作る「5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動」、問題解決できる人を増やす「テーマ活動」の3本柱を軸に、現場のメンバーが改鮮活動にモチベーションを持てるような職場づくりに注力してきました。

「大事なのは、誰もが問題を見つけた際に『ここ直しましょう』と言える雰囲気を作ることです。だから、改鮮活動では『出てきた意見は全部試す』を基本のスタンスとしています。小さなところから『自分の意見が採用されて、問題が改善された』という成功体験を積み重ねていくことで、業務に対するモチベーションが少しずつ底上げされます」

▲自立を促す改鮮隊の考え方は、ロート製薬の「経営理念」が元になっている

現場から出てくる問題提起やその改善案は、毎月1000件ほどに上ります。改鮮隊は、まず現場に足を運び、持ち場のメンバーに現状を確認。そして、どうやったら問題解決できるかを、現場のメンバーと共に考えることから始めます。

「現場と話し合い、費用を計算したうえで問題なければ、とりあえず改善案を試してみます。それでダメだったら、また別の対策を考えたらいいわけで。問題に対して改善案が出てこないようなら、『こういう切り口はどう?』と考え方を提案します。改鮮隊が答えを提示することはありません。従業員一人ひとりが、自分で考え、自分で行動できるようにサポートするのが、私たちの役目です」

こうした改鮮隊の地道なアプローチによって、それまで現場で放置されてきた問題の多くが改善され、生産性も数字に表れる形で上がったそうです。しかし、阿部さんはそれ以上に「現場メンバーの成長、働く意識の変化」に大きな成果を感じていると語ります。

「改鮮活動に取り組む中で、それまで黙々と作業をこなすだけだった方が『自分のチームのモチベーションを上げるための施策を考えているので、相談に乗ってもらえませんか?』と相談してきてくれたことがあります。そんな事例が、一人二人と増えていって……10年前ならあり得なかった職場の変化を目の当たりにする度に、改鮮隊のやりがいをひしひしと感じています」

東北のたらこ工場にも広がった改鮮活動

ロート製薬の“ひとづくり”に大きく貢献してきた改鮮隊。2015年、社内の改鮮活動にひたすら注力していた彼らに、社外から「ウチに来て改鮮活動の指導をしてくれないか」とラブコールを送る人物が現れました。“たらこのみなと”の愛称で親しまれている宮城県石巻の湊水産株式会社の社長、木村一成氏です。

「ロートでは2011年に『復興支援室』を発足させてから、東日本大震災の被災地支援を継続的に行なってきました。そこでご縁があった木村さまが、2015年の春にうちの工場に見学にいらしたことがあって。その際、改鮮隊の取り組みについてプレゼンをしたら、自立するというロートの経営理念を実践している改鮮活動に、とても共感してくださったんですよ」

木村氏はその後すぐに自社で改鮮隊を立ち上げて、社内に改鮮活動を広めようと試みます。しかし、試行錯誤を続けること半年。現場にはなかなか浸透せず、改めて取り組む目的に向き合い、考えて行動をする自立した集団を目指すべく、本家であるロートの改鮮隊に応援を依頼したのです。

社長の熱い思いに心動かされ、阿部さん率いる改鮮隊のメンバーは、改鮮活動を伝導するべく、石巻へ飛びました。多忙な業務の合間を縫って確保できた時間はわずか2日。短い期間の中で、阿部さんはどんなアプローチをしたのでしょうか。

「初日はとにかく現状確認です。まずは『これはなんですか? あれはなんですか?』と逐一聞きながら、工場の中をくまなく回りました。それから、たらこのみなとさんの改鮮隊メンバーに『工場をこれからどうしていきたいか』を聞いたり、従業員に最近の仕事の調子を尋ねたりと、ヒアリングもして。そして、2日目に講習会を行いました。初日に撮った工場の写真を見せながら、僕らが現状を見て感じた問題意識を、丁寧に共有していきました」

現状を把握した阿部さんが特に課題だと感じたのは「真剣さの共有ができていないこと」でした。社長である木村氏の思いを改鮮隊に、改鮮隊の思いを現場の従業員にちゃんと伝えたい。そのためには、まず外から来た自分たちが「たらこのみなとさんの問題に対して真剣であること」をアピールするべきだ――そう感じた阿部さんは、自らの行動で本気度を示していきます。

▲ヒアリングを徹底的に行い、課題の洗い出しを行った

「みなさんに『言い訳禁止』を約束してもらい、動きが悪いと感じたらスーツを着たまま床に膝をついて掃除したりもしました(笑)。そうすると、たらこのみなとの方たちも動き出してくれるようになり、そのうち『なんで今までやらなかったんだろう』って声も聞こえました」

▲たらこのみなとさんも自ら課題を見つけ、解決の糸口を探るように

ロート改鮮隊の熱意に触れ、あらためて社長の思いや覚悟に耳を傾けたことで、「顔つきが変わっていた」と阿部さんは振り返ります。もちろん、2日間という短い期間で劇的に環境が好転することはありませんが、たしかな手応えがあったといいます。

「誰かがやるだろう」という考えを取っ払い、「自分が(進んで)やる」という気持ちを芽吹かせること……それが、改鮮活動の肝となる“自立の心を育む第一歩なのです。

次の10年に向けて、成長し続ける改鮮隊

10年間、地道にコツコツと積み上げてきた、ロートの改鮮活動。それが思わぬ形で人の役に立ったことで、阿部さんの心境にも変化が訪れます。

「改鮮隊の今後について、私はずっと『いつか改鮮隊がなくなるのがベストだ』と思っていました。“改鮮隊”がいなくても、改鮮活動があたり前のように根づいていることが理想じゃないかなと。だから、『いかに改鮮隊を減らしていくか』という方向性を検討していたのですが……たらこのみなとさんでの体験を経て、今は『増やすのもありかな』と感じています。なにかを減らしたり、止めたりするのも改善の一つですが、進化し続ける工場であるためには、新たな価値を増やし続けなければいけない、と気付いたんです」

阿部さんはこの遠征で得た気づきを、ロートの現場で生かしていきたいと語ります。

「私自身、たらこのみなとの方々との交流から、多くの気づきを得られました。それこそ、お金を払って受ける研修よりも、生きた学びに満ちていて有意義だった気がしています。必要な摩擦を恐れずに意見を出し合えば、現場は必ずいい方向に変わっていくのだと、改めて肌で感じることができました。今後のロートの改鮮活動も、たらこのみなとさんの熱量に負けないように、気持ちを引き締めて臨んでいきたいなと思っています」

10年もの間、ロート製薬の現場を鼓舞し、成長を支え続けてきた改鮮隊。現状に満足することなく、次の10年に向けて邁進していく彼らの改鮮活動に、終わりはありません。

文:西山武志+プレスラボ

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