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ヒト角膜上皮細胞に対するソフトコンタクトレンズケア用品の安全性を研究

研究開発

ヒト角膜上皮細胞に対するソフトコンタクトレンズ(以下、SCL)のケア用品(消毒剤)の安全性を研究 有効成分であるポリヘキサメチレンビグアニドの分子量によってヒト角膜上皮細胞に対する作用に違いがあること、ならびに細胞のバリア機能への影響が異なることを明らかにしました。

2017年9月26日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:吉野俊昭)は、植田喜一先生(ウエダ眼科、山口県下関市)と共同で、ソフトコンタクトレンズ(以下、SCL)のケア用品の有効成分として広く使われている「ポリヘキサメチレンビグアニド(以下、PHMB)」について研究を行い、PHMBの分子量によってヒト角膜上皮細胞に対する作用に違いがあること、ならびに分子量の異なるPHMBが細胞のバリア機能へ及ぼす影響を明らかにしました。これら2つの研究の成果を第60回日本コンタクトレンズ学会総会(2017年7月15日~16日、大阪府で開催)で発表しました。こうした知見をもとに新しいケア用品の開発に取り組みます。

研究の背景

SCL用のケア用品による眼障害を防ぐためには、安全性の高いケア用品を選択し、正しくケア用品を使用する必要があります。微生物を消毒する多目的用剤(マルチパーパスソリューション/以下、MPS)はケア用品として使用されていますが、稀に角膜上皮に影響を与えるという報告があるため、消毒力と安全性の両面を満たすMPSの開発が望まれています。
一方、SCLのケア用品の有効成分として汎用されているPHMBは陽イオン性消毒成分であり、幅広い抗菌スペクトルを持つことが知られています。SCLケア用品に配合されているPHMBは低分子~高分子の広い分子量分布を持ち、その分子量の違いによって、微生物に対する消毒効果が異なることを昨年の第59回日本コンタクトレンズ学会総会で報告しました。今年の第60回同総会では、PHMBの分子量がヒト角膜上皮細胞ならびに細胞のバリア機能に及ぼす影響について研究したことを発表しました。

※角膜上皮細胞:角膜は5層からなる組織ですが、その最も外側の細胞が角膜上皮細胞です。

研究の結果

分子量が異なるPHMBのヒト角膜上皮細胞に対する影響

市販品のPHMBを分子量によって低分子と高分子に分けました。ヒト角膜上皮細胞を低分子および高分子のPHMB希釈液に接触後、細胞生存率(%)を算出しました。PHMBの濃度が1µg/mL、5µg/mLでは、高分子および低分子の細胞生存率に有意な差が見られませんでした。一方、10µg/mL、20µg/mLでは、高分子は細胞生存率が低分子よりも有意に低下しました。
以上より、ヒト角膜上皮細胞に対する細胞ダメージは高分子で強く、低分子では弱いことが明らかになりました。

分子量が異なるPHMBがヒト角膜細胞のバリア機能に及ぼす影響

TER(経上皮電気抵抗)試験※1

ヒト角膜上皮細胞を低分子および高分子のPHMB希釈液に接触後、細胞のバリア機能の指標であるTER値(Ω/cm2)を測定し、相対TER(%)を算出しました。PHMBを接触させない場合のTER値と、接触させた後のTER値をそれぞれ測定し、PHMB非接触下に対する接触下のTER値の割合を相対TERとしました。
PHMBの濃度が1µg/mL、5µg/mLでは、高分子および低分子の相対TERに有意な差が見られませんでした。一方、10µg/mL、20µg/mLでは、高分子は相対TERが低分子よりも有意に低下しました。

※1:TER試験は、細胞間のタイトジャンクションによるバリア機能を評価する方法として広く用いられています。タイトジャンクションは角膜上皮の細胞間同士の接着を担っており、眼を外的刺激から守るバリア機能として重要な作用を持っています。このタイトジャンクションの機能が低下するとTER値(Ω/cm2)は低くなります。
Occludin蛍光免疫染色試験※2

ヒト角膜上皮細胞を低分子および高分子のPHMB希釈液に接触後、Occludinの染色を観察しました。PHMBを接触させない場合のOccludinの染色を対照としました。
PHMBの濃度が50µg/mLでは、低分子はOccludinが細胞間で線状に染色されていましたが、高分子はOccludinの蛍光強度が低下しました。

※2:Occludinは、細胞間タイトジャンクションの構成タンパク質で細胞のバリア機能の指標として用いられます。細胞のバリア機能が低下するとOccludinの蛍光強度が低下します。

以上より、ヒト角膜上皮胞に対するバリア機能への影響は、高分子で大きく、低分子では小さいことが明らかになりました。

展望

ヒト角膜上皮細胞およびバリア機能の影響は低分子よりも高分子のPHMBで大きいことから、分子量によってヒト角膜上皮細胞に対する安全性に違いがあることが示されました。一方、微生物に対するPHMBの消毒力も分子量によって異なることから、消毒力と安全性を両立する最適なPHMBの分子量を追究することが必要であると考えます。今後は、これらの知見を新しいケア用品の開発に応用していきます。