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リパーゼ阻害における海藻クロメの効果的な抽出条件の発見

研究開発

水産未利用資源の新たな用途開発 リパーゼ阻害における海藻クロメの効果的な抽出条件の発見 ~鳥取大学とロート製薬の共同研究~

2022年10月11日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)と国立大学法人 鳥取大学(本部:鳥取市、学長:中島廣光)は、鳥取県で食品として有効利用されていない海藻クロメの機能性、主に脂質吸収に関与するリパーゼ阻害作用に関する研究をすすめています。今回、鳥取大学工学部(八木寿梓准教授)との共同研究にて、アルコールに比べ食品製造に適した水を用いて、海藻クロメから種々の条件で抽出した標品のリパーゼ阻害作用を調べた結果、適した抽出条件を発見しました。本研究内容は第76回日本栄養・食糧学会大会(2022年6月10~12日)にて発表しました。

写真1:鳥取県沖で自生しているクロメ

研究成果のポイント

  • 食品製造上の課題が少ない水を用いた抽出方法で、鳥取県では食品として有効利用されていなかった海藻クロメの抽出物のリパーゼ阻害作用を発見した。
  • リパーゼ阻害に対して、水を用いた海藻クロメの適した抽出条件を発見した。
  • 鳥取県で有効利用されていなかった海藻クロメの食品としての価値向上が期待できる。

研究の背景

日本近海において、約2,000種類もの海藻が生育しており、海洋環境の維持および魚や海中動物の藻場として重要な役割を担っていることが知られています。一方、食として流通している海藻は100種類程度であり、現在活用しきれていない海藻の有用化や付加価値を付けられると、水産業の新たな戦略の一つとなる可能性を持っています。
本研究では、褐藻のカジメ属クロメに着目することとしました。褐藻はさまざまな生理活性が報告されており、クロメは一部の地域では食品として有効利用されているものです。また、海藻クロメをエタノールで抽出したエキスにおいて脂質吸収に関与する消化酵素のリパーゼの活性を阻害することが報告されています。国外では肥満に対する医薬品として承認されているオルリスタットはリパーゼ阻害活性を有していることから、海藻クロメの生活習慣病をターゲットとした製品への応用も期待できます。しかしながら、アルコール抽出方法と比較して製造上の課題が少なくなると考えられる水抽出によるその効果は報告されておりません。そこで、本研究では、海藻クロメの水抽出物のリパーゼ阻害作用を検討しました。

結果、考察

海藻クロメの水抽出物は、リパーゼ阻害作用を有することが確認されました。また、リパーゼ阻害作用が強くなる海藻クロメの抽出温度および時間が確認されました(図1)。1及び3時間抽出いずれにおいても、60~80℃の抽出温度でリパーゼ阻害作用が強くなりました。
以上の結果から、クロメ水抽出物は脂質の吸収を抑制する機能を有していることが示唆されました。また、煮沸温度付近ではリパーゼ阻害作用が弱くなったことから、食品の加工方法を検討することでクロメの脂質異常等の生活習慣病の改善・予防効果をもった製品としての付加価値の向上が期待できます。

図1:クロメの抽出条件がリパーゼ阻害作用に及ぼす影響

試験方法:
リパーゼの基質となる4-Methylumbelliferyl oleate(4-MUO)、消化酵素リパーゼ及び種々の濃度のクロメエキスを混合し、37℃で20分間反応させた。4-MUOはリパーゼにより蛍光性の4-Methyluumbelliferone(4-MU)に分解される。4-MUを励起波長320nm、蛍光波長450nmで検出することにより測定した。
消化酵素のリパーゼの働きを半分にする海藻クロメの濃度(IC50)を縦軸に、横軸は海藻クロメの抽出温度を示した。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、鳥取県で有効利用されていなかった海藻クロメの食品としての価値向上が期待できます。

特記事項

本研究成果は第76回日本栄養・食糧学会大会(2022年6月10~12日)にて発表しました。
タイトル:“海藻クロメ水抽出物によるリパーゼ活性および脂質吸収阻害”
著者名:網城 紀子、正壽 慎太郎、古野 哲生、伊藤 佑夏、大城 隆、八木 寿梓

用語説明

※1:リパーゼ
膵臓に含まれる消化酵素の一つです。食品中の主な脂質のトリグリセリドは、リパーゼによりモノグリセリドと脂肪酸に消化され、吸収されます。