乳酸発酵ヒアルロン酸の抗菌作用を発見
―膣内フローラのバランスに着目―
2025年3月5日
ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、ロートグループ 総合経営ビジョン2030である「Connect for Well being」の実現に向け、女性の健康・フェムケアの研究を進めています。今回、女性の膣内フローラ※1に関する研究を進めた結果、乳酸球菌/ヒアルロン酸発酵液※2(以下、乳酸発酵ヒアルロン酸)が選択的に抗菌作用をもつ可能性を明らかにしました。
研究成果のポイント
- 乳酸発酵ヒアルロン酸が有益な菌である乳酸菌には影響を与えず、悪玉菌を選択的に抑制することを発見
- 乳酸発酵ヒアルロン酸が濃度依存的に悪玉菌の増殖を抑制することを確認
- デリケート部位の健康に寄与する新しい製品開発への応用に期待
研究の背景
近年、デリケート部位に対する関心が高まっています。特に、膣のpHやプロバイオティクス※3など、膣環境をサポートする機能に着目した洗浄剤や保湿剤などの製品が注目を集めています。この背景には、膣内フローラに関する理解の深まりや、感染症・不快感への意識の向上、さらにはデリケート部位のセルフケアに対する認識の広がりがあると考えられます。
図1a:乳酸菌が豊富で健康的な状態の膣内フローラ
図1b:乳酸菌が減少し、G. vaginalisなどの悪玉菌が増えた状態(細菌性膣炎に多い状態)の膣内フローラ
健康な膣内フローラは、細菌性膣炎※4(以下、BV)のような感染症の予防や、免疫力向上など女性の健康維持に重要な役割を果たします。特に、乳酸菌の一種であるLactobacillus crispatus※5(以下、L. crispatus)は、膣環境の維持と密接に関連しており、高い乳酸産生能力によって膣内を最適なpHに維持し、悪玉菌の増殖を抑制します(図1a)。そのため、L. crispatusが膣内に定着し、優勢であることは健康な膣内フローラの特徴の一つと考えられます。一方で、Gardnerella vaginalis※6(以下、G. vaginalis)は嫌気性通性病原菌で悪玉菌の一つとして知られ、膣内フローラのバランスを崩すことでBVの主な原因となります(図1b)。BVは、膣分泌物の悪臭、不快感、感染リスクの増加などの症状を引き起こし、膣環境に深刻な影響を与える可能性があります。
今回、ヒアルロン酸に関する幅広い研究の結果から、膣内フローラのバランスをサポートする成分として「乳酸発酵ヒアルロン酸」に着目しました。本研究では、G. vaginalisおよび、L. crispatusに対する作用を確認することとしました。
結果
乳酸発酵ヒアルロン酸がG. vaginalisの増殖を選択的に抑制することを発見
乳酸発酵ヒアルロン酸とG. vaginalisを共培養したところ、乳酸発酵ヒアルロン酸は、0.0075%以上の濃度でG. vaginalisの増殖を有意に抑制しました(図2)。さらに、G.
vaginalisに対する抗菌作用は濃度依存的に強まることが確認されました。
図2 G. vaginalisに対する乳酸発酵ヒアルロン酸の増殖抑制効果※7
乳酸発酵ヒアルロン酸はL. crispatusの増殖に影響を与えないことを確認
乳酸発酵ヒアルロン酸は濃度依存的にG. vaginalisの増殖を抑制した一方で、L. crispatusgの増殖状態には有意な差は無く、顕著な増殖抑制効果は観察されなかった(図3)。
図3 L. crispatusに対する乳酸発酵ヒアルロン酸の増殖抑制効果※7
<試験方法>
本試験では、L. crispatusおよびG. vaginalisを、0.00372%~0.06%の濃度範囲の乳酸発酵ヒアルロン酸とともに37℃の嫌気性条件下で24時間培養しました。培養の開始時(t=0時間)および24時間後(t=24時間)に、600nmの波長で光学密度(OD)を測定し、菌を定量しました。グラフに示されている値は、乳酸発酵ヒアルロン酸を含有した菌のODと、乳酸発酵ヒアルロン酸を含有しない場合のODの比を示しており、小さくなるほど増殖が抑制されています。
(n=3、Dunnett **:P<0.01、MyMicrobiome GmbH実施)
※7:MIC(最小増殖阻止濃度)測定による
考察
以上の結果から、乳酸発酵ヒアルロン酸はG. vaginalisに対して選択的に抗菌作用を示し、L. crispatusのような有益な菌には影響を与えない可能性があることが示唆されました。このことは、乳酸発酵ヒアルロン酸が特定の細菌種にのみ作用する選択的なメカニズムを有する可能性を示唆しています。
今後の展望
本研究成果により、膣環境の健康維持に対する新しいアプローチの可能性が期待されます。今後は、膣内フローラに対する基礎研究や膣内フローラのバランスをサポートする新たな成分の探索を進めていくともに、社会の膣の健康に関する理解を深め、女性のQOL向上やウェルビーングに貢献する製品開発を目指してまいります。
用語説明
※1:膣内フローラ
膣内に生息する様々な細菌の集まりのこと。雑菌の侵入や増殖を防ぐ自浄作用がある。健康的な膣内フローラの乳酸桿菌(乳酸菌の一種)が大半を占める。
※2:乳酸球菌/ヒアルロン酸発酵液(乳酸発酵ヒアルロン酸)
ヒアルロン酸を基質として乳酸球菌(Lactococcus)により発酵させた後、ろ過して得られる液体。
※3:プロバイオティクス
健康にいい影響を与える生きた菌(菌)のこと。
※4:細菌性膣炎(BV)
生活習慣やストレスなどの原因で膣内の細菌バランスが乱れることで発症する感染症
※5:Lactobacillus crispatus(L. crispatus)
女性の膣内フローラにおいて主要な役割を果たす乳酸桿菌の一種。膣内環境の維持に主要な役割を果たす。
※6:Gardnerella vaginalis(G. vaginalis)
膣内の細菌バランスが崩れた際に過剰に増殖する、細菌性膣症(BV)の主要な原因菌の一つ。