男性も女性も知っておくべき「妊活」の正しい知識

2016年6月24日

「妊娠は神秘である」――こう話すのは、約25年にわたり不妊の治療・研究に携わってきた大阪・高槻にある後藤レディースクリニック院長の後藤栄先生。
ロート製薬では妊娠検査薬「ドゥーテスト・hCG」や、排卵日検査薬「新ドゥーテストLH」を販売し、子どもを望むカップルをサポートしてきました。商品開発やユーザーの声を聞く中で、わかったのは「妊娠に関する正しい知識がなかなか浸透していない」ということ。そこでまずは、社員が正しい知識を身につけようと、社内向けにセミナーを開催することになりました。ここからは、産婦人科医の後藤栄先生の講演内容を、要約して紹介します。

●プロフィール
後藤 栄(ごとう さかえ)
1988年、滋賀医科大学卒業(滋賀医科大学付属病院産婦人科にて臨床研修)。 できるだけ自然な妊娠を目指す治療を行う一方、高度生殖医療の治療・研究も行い、1999年に二段階胚移植、2006年にはシート法(SEET法)を考案・開発。約25年にわたり不妊の治療・研究に携わる。

妊娠は神秘的――知っておきたい「妊活」の話

クリニックで日々さまざまな患者さんたちと話していると「妊娠を望むなら排卵日に性交する」とか「医療の進歩でどれだけ高齢でも妊娠が望める」など、実際とは異なる認識を持っていらっしゃる方が多いなぁと感じます。まず申し上げたいのは、妊娠は「授かりもの」とよく言ったものですが、本当に神秘的だということ。その前提に立って、これから「妊活」への正しい知識と理解を持っていただけるよう、お話をしていきます。

まず「不妊」とはどういうことなのでしょうか。妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、ある一定期間妊娠しない状態にあることを指し、日本産科婦人科学会ではこの一定期間を「1年間」と規定しています。「そんなに短期間なのに、『不妊』と呼べるの?」と思う方も多いのではないでしょうか。結婚後1年くらい経っても子どもを授からないことは、そう珍しいことでもありません。

自然妊娠は、卵巣から排卵された卵子が卵管を通るあいだに、約1億匹の精子のうちたった1匹と受精し、子宮に着床することで起こります。この間、およそ5日。妊娠する可能性があるのは排卵日の6日前から排卵日の1日後ほど。その間に性交し、妊娠する確率は29歳以下の女性で約30~50%です。その確率は26歳をピークに緩やかに下降していきます。不妊状態にあるカップルだと、妊娠するする確率は1周期あたりで約2%といわれていますから、妊娠することがどれほど神秘的なのか、実感いただけるのではないでしょうか。

▲自然妊娠の仕組み

最近では特に晩婚化の傾向が高まり、高齢出産される方も多くなりました。よくニュースでも40歳を超えて出産される芸能人や、「年の差婚」などが話題にされていますから、「高齢になっても妊娠・出産できるんだ」と考える人は多いようです。けれども現実的に妊娠できる確率、「妊孕力(にんようりょく)」は35歳を境に大きく低下し、40歳以降はさらに低下します。それに反比例して流産率は上昇し、卵子なら染色体異常、精子なら遺伝子異常の確率が高くなるのも見過ごすことのできない事実です。

実は間違い!? 「この日が狙い目」

妊娠を望む方がまず思い浮かべるのが「排卵日を調べ、そのタイミングを狙って性交をする」という方法ですが、実は必ずしも効果的な方法とは言い切れません。ある論文でも発表されているのですが、実は妊娠の可能性が最も高い性交のタイミングは排卵日の2日前、次いで排卵日の前日なのです。また、精子の寿命は約36~48時間のため、排卵日の6日前から36~48時間ごとに性交することでより妊娠の可能性は高まります。理想としては週3日くらいスキンシップを図っていただきたいのですが、共働きや長時間労働でなかなか夫婦の時間が持てない方も多いでしょう。少なくとも排卵日前後には、こまめにタイミングを取っていただければと思います。

タイミングを取っても妊娠が叶わないのなら、ぜひパートナーと一緒にクリニックに足を運んでください。さまざまな要因が妊娠を阻害している可能性があるためです。不妊状態にあるカップルの場合、その要因を持つ割合は女性と男性で半々だといわれています。また、前述の通り、35歳を超えると妊娠率は低下します。最近では「ブライダルチェック」という言葉を耳にしたことのある方もいるかもしれませんが、35歳を超えて結婚された方であれば、早い段階からクリニックでチェックしてもらうのも一つの手でしょう。「今日より若い日はない」ですからね。

しっかり調べて最善の方法を……不妊治療の「戦略」

クリニックにいらした方はまず1カ月ほどかけて基本検査を行います。5~6回の通院の間、生理周期に合わせて排卵、卵管、子宮など各部位に何らかの問題がないかどうか、「フーナーテスト」と呼ばれる性交後試験(性交後に、頚管粘液中に元気な精子がどの程度いるのかを調べる検査)、あるいは男性側だと精子を採取して検査するなど、さまざまな可能性を想定して検査していきます。そしてそこから割り出された要因を踏まえたうえで、二人にとって最短かつ最小限の治療計画、戦略を立てていくわけです。

不妊治療には大まかに3種類の方法があり、それは「タイミング治療」「人工授精」「体外・顕微受精」となります。以前ならこれらを順次試みていく「ステップアップ方式」がほとんどでしたが、当院でも初診年齢が平均37歳と高齢になってきたこともあり、最初から体外受精を試みることも珍しくありません。体外・顕微受精から戻って人工授精、あるいはいったん休んでタイミング治療など、必要に応じて排卵誘発剤やホルモン剤を併用しながら臨機応変に診療を進めていきます。

それぞれの治療法について解説していきましょう。
排卵日前後に性交のタイミングを取るのがタイミング治療です。不妊症の方が排卵誘発剤を使うと、1周期あたりの妊娠率は4~8%ほどになるといわれています。ただし、これは若い女性の場合であり、40歳を超えるとその効果は残念ながらあまり期待できなくなります。もちろんそれに限らない場合もありますので、必ずしも意味がないというわけではありません。

人工授精はよく体外受精と混同されることが多いのですが、これは男性の精子を容器に取って精製し、元気な精子だけを直接子宮に注入していくという方法。その後、受精から妊娠に至るメカニズムは自然妊娠と変わりません。この方法によって、8~10%程度の妊娠率になるといわれています。

以上二つが一般不妊治療にあたりますが、「そこまで大きく妊娠率が改善するわけではない」と感じた方もいるかもしれません。やはり初診年齢が高齢になればなるほど、何らかの要因で妊娠のしくみに問題を抱えている人が多く、体外受精をベースに治療を進めていくことが増えていくからです。

体外・顕微受精は女性の卵巣から卵子を採卵し、体外で男性から採取した精子と受精させます。この際、精子に問題がない場合は卵子を入れた容器の中に一定の濃度になるよう精子を加えて受精を行い(体外受精)、精子状態があまり良くない場合は顕微鏡下でニードル(ガラス針)を使って精子を卵子に注入し、受精を行います(顕微受精)。そして胚(受精卵)を胚盤胞と呼ばれる状態まで培養し、再び子宮内に移植するのです。その胚が無事に着床すれば、妊娠となります。

悩む前にまずクリニックへ行ってみよう

当院では2015年だけで484名の方が体外・顕微受精によって妊娠されています。また、以前なら「試験管ベビー」という言葉も聞かれましたが、今では1年に生まれる赤ちゃんのうち27人に1人が体外受精で生まれた赤ちゃんだといわれ、もはや珍しい存在ではなくなってきています。

「体外受精は高額なばかりで、なかなか妊娠しない」と考えている方もいるかもしれませんが、当院のデータでは年齢別における初回の体外受精による妊娠率は、29歳以下で75%、30~34歳で65.5%、35~39歳で46.5%、40歳以上で14.3%となっています。なるべく早い時期に初診に来ていただければ、確率はそう低いわけではありません。

また採卵の際、もし複数の卵子を採卵することできれば、複数の胚を培養し、凍結保存しておくことも可能です。「年齢を経るごとに卵子が劣化する」という言葉もありますが、たとえば「34歳の時に採取した受精卵を使って、37歳で再び妊娠する」ことも可能となりますし、この場合、37歳時に採取した卵子よりも妊娠率は高くなるのです。また、凍結保存技術も進歩しているため、凍結融解胚移植のほうが妊娠率は上がるというデータもあります。

もし現時点で「いつか子どもが欲しい」と思っているのであれば、不妊に悩んでいない人も、一日でも早くクリニックを訪ねてみてください。私たちも「不妊に悩むカップルが一人でもお子さんを産むことができますように」と思いながら、日々治療にあたっています。


以上が後藤先生の講演内容でした。ロート製薬が目標とするのは、妊娠検査薬や排卵日検査薬を扱っている会社として、まずは社員が正しい知識を身につけ、健康でいるということ。妊活には正しい知識を持つことが大切であり、それを世の中に伝えることで、「妊活は特別なことではなく、ごく当たりまえのこと」という理解が広がるよう、これからも働きかけていきます。

文:大矢幸世+プレスラボ

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