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一般用点眼薬の有効成分「グリチルリチン酸二カリウム」がアレルギー性結膜炎の『持続的炎症』を抑えることを発見

研究開発

一般用点眼薬の有効成分「グリチルリチン酸二カリウム」がアレルギー性結膜炎の『持続的炎症』を抑えることを発見 ~抗炎症成分プラノプロフェンとの作用点の違いを解明~

2017年2月24日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:吉野俊昭)は、一般用点眼薬に配合される抗炎症成分について、アレルギー性結膜炎を抑えるメカニズムの解明を目指して基礎研究を行ってきました。研究の結果、「グリチルリチン酸二カリウム」はアレルギー性結膜炎の『持続的炎症』を抑えることを初めて明らかにしました。このことは即時的炎症に効果があることが知られている「プラノプロフェン」との作用点の違いを解明するものです。
本研究の成果は、第41回日本角膜学会総会(2017年2月16日~18日、福岡県で開催)で発表しました。この知見をもとに、アレルギー性結膜炎に有効な新しいアレルギー用点眼薬の開発に今後も取り組んでまいります。

研究の背景

アレルギー性結膜炎は、花粉やハウスダストなどの抗原によりアレルギー反応が引き起こされ、目のかゆみや充血などの自覚症状を伴う炎症性疾患です。炎症の発症メカニズムには、(1)抗原が結膜に侵入した直後に起きる「即時的炎症」(2)即時的炎症に続いて起きる「持続的炎症」の2種類が関与していると言われています
グリチルリチン酸二カリウム(以下、GK2)は、アレルギー用の一般用点眼薬に長年使用されている有効成分ですが、GK2の詳細な抗炎症メカニズムは明らかにされていませんでした。そこで、当社ではより効果的な点眼薬の開発につなげる目的で、アレルギー性結膜炎における即時的炎症、持続的炎症に対するGK2の作用について研究を行いました。また、即時的炎症に効果があることが知られているプラノプロフェン(以下、PPF)とも、作用の違いについて比較検討を行いました。

*即時的炎症と持続的炎症

即時的炎症は、結膜に多く存在する肥満細胞と呼ばれる炎症細胞から放出されるヒスタミン等が目のかゆみや充血などの症状を引き起こします(脱顆粒)。その反応は数時間以内に収束すると考えられています。
持続的炎症は、好酸球と呼ばれる炎症細胞が結膜に集積することを特徴とし、その炎症は抗原が結膜に侵入してから数日間続くと考えられています。持続的炎症は、好酸球から放出されるロイコトリエン等により長期に渡り目のかゆみ等の症状を引き起こす原因になると考えられています。

結果

【結果1】GK2が持続的炎症を抑制する

花粉などの抗原が侵入したのちに起きる持続的炎症への作用を評価したところ、GK2を投与したものは持続的炎症の指標となる好酸球が少ないことが初めてわかりました。このことから、GK2は持続的炎症を抑えることが示されました。

<試験方法>持続的炎症に対する薬剤の効果を確認するため、アレルギー性結膜炎モデルを作成しました。薬剤を含まない製剤(VEH)および0.25%のGK2(現在、一般用点眼薬への配合が確認できた最高濃度)を投与したものにおける、結膜炎発症6時間後の好酸球数を比較しました。好酸球数の計測は、好酸球に含まれる炎症性のタンパク質の活性を測定することで定量しました。

【結果2】GK2は好酸球を集積させるタンパク質(エオタキシン)の産生を抑制する

好酸球の集積により、持続的炎症が引き起こされるため、好酸球を集積させるタンパク質であるエオタキシンの産生量を測定しました。その結果、GK2はPPFよりも顕著にエオタキシンの産生を抑えていることが確認されました。このことから、GK2は持続的炎症を抑える作用が特に強いと考えられます。

<試験方法>ヒト結膜線維芽細胞において、好酸球を集積させるタンパク質であるエオタキシンを産生させる条件下でGK2および0.05%のPPF(現在、一般用点眼薬への配合が確認できた最高濃度)の効果を比較しました。

【結果3】PPFとGK2の作用点は異なる

GK2とPPFの作用点を明確にするため、抗原が侵入したのち短時間で起きる即時的炎症への作用を評価しました。その結果、PPFは即時的炎症反応を抑えることが確認されました。

<試験方法>アレルギー性結膜炎モデルを作成しました。炎症が起きると炎症部位が色素で染まることを利用し、発症30分後のVEHおよび0.05%のPPFの色素量をもとに抗炎症効果を比較しました。

肥満細胞が脱顆粒すると、即時的炎症が引き起こされることがわかっています。そこで、次に、GK2とPPFの作用機序を比較するため、肥満細胞の脱顆粒を評価しました。その結果、本試験においては、GK2は脱顆粒を抑えなかった一方で、PPFは脱顆粒を抑えることがわかりました。このことから、PPFは肥満細胞の脱顆粒を抑えることで、即時的炎症を抑えていると考えられます。

<試験方法>造血幹細胞を採取し肥満細胞に分化させたのち、肥満細胞おけるVEH、GK2および0.05%のPPFの脱顆粒抑制効果を確認しました。

以上より、GK2はエオタキシンの産生を抑えることで持続的炎症に、PPFは肥満細胞の脱顆粒を抑えることで即時的炎症に対して抗炎症効果を発揮することがわかりました。

考察

アレルギー性結膜炎において、GK2は炎症細胞の集積を抑制することで、持続的炎症を抑えることを初めて明らかにしました。GK2の炎症細胞の集積抑制効果の一つとして、炎症細胞の一種である好酸球を強く集積させるタンパク質であるエオタキシンの産生抑制が関与していると考えられます。PPFは即時的炎症を強く抑えることが確認され、そのメカニズムの一つとしては、肥満細胞からの脱顆粒の抑制作用が関与していると考えられます。
以上の結果から、GK2とPPFは、異なる作用メカニズムで抗炎症効果を発揮することが明らかとなりました。