人が集い続ける学びの場「モリウミアス ルサイル」 被災地支援から見えた人と企業の未来

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2016年2月22日

ロート製薬が支援した子どもたちのための自然体験複合施設「モリウミアス ルサイル」は、自然を通じて今を生き抜く知恵と出会う場所。コミュニティスペースの可能性に注目が集まる今、この施設はいかにして人を惹きつけ、地域の象徴的存在になったのでしょうか。その成り立ちから、企業や人の未来を考えてみましょう。

人と自然の循環を知り、生きる力を養う

「モリウミアス ルサイル」は、未来を担う子どもたちに自然との共生を意味する「サステナビリティ(持続可能性)」の考え方に基づいた宿泊体験を提供している複合体験施設。2015年夏に宮城県石巻市雄勝町(おがつちょう)に誕生しました。

築94年の廃校舎を改築した施設は、東北地方の復興支援活動を行う「公益社団法人sweet treat311」が、東日本大震災の津波被害が甚大だった雄勝町の再生を目指し、延べ5,000人ものボランティアを動員して形にしたもの。年間を通じて全国各地から絶え間なく子どもたちがこの施設にやってくることから、高齢化の進むこの街に子どもたちの声が戻ってきたことをよろこぶ声も聞かれているといいます。

参加プランには子どもたち(小・中学生)の長期休暇の時期に合わせた7泊8日の滞在型プランと、通年で行っている1〜2泊の短期訪問型プランがあり、どちらのプランにも参加時期によって多彩なプログラムが展開されます。

漁師とともに漁に出たり、地元の住民が行う間伐作業の手伝いをしたり、ここでは誰もが生活のなかで自分の役割を見つけ、自発的に物事を考えて行動することが求められます。やってみることで得られる学びを大切にしていることから、刃物の扱いなど都会では親に禁止されているようなことも、スタッフとのきちんとした約束事のなかでどんどん体験させます。プログラムに参加する子どもたちもそれに関わる大人たちも、一緒になって学びながら成長し、生きる力を養っていくことを目指しているのです。

地域を包括的に捉えることが本当の再生

雄勝町はリアス式海岸に面し、山や森の栄養を豊富に含んだ地下水が海底から湧き出す、日本屈指の漁場です。しかし震災によって、4,300人いた人口は1,000人にまで減少。主幹産業である漁業は壊滅的な打撃を受けました。

ロート製薬の復興支援室(当時)の室長を務める佐藤功行(さとうのりゆき)さんは、そんな東北地方の現状を視察するなかで、「sweet treat311」の代表理事・立花貴(たちばなたかし)さんと、理事・油井元太郎(ゆいげんたろう)さんに出会い、その熱意に共感。漁業支援の必要性も感じていたことから、企業の社会活動の一環として、地元の漁師と一緒に海に出て漁をする日々を送りながら、施設の改築にも中核的に関わり続けました。

「町は漁業だけでは成り立たないし、教育だけでも成り立たない。それらを包括する一体的な地域をつくることが本当の再生であり、モリウミアスはそのハブになると確信していました」(佐藤さん、以下同)

クラウドファンディングも活用しながら資金調達に奔走する一方で、慣れない校舎の改築作業にも苦心する佐藤さん。閉校から13年経った校舎は、雨風によって裏山が崩れ、校舎裏にも床下にも土砂がたっぷり。歴史的にも重要な建築物だったことから再築はしないと決めました。そのため、土砂をマンパワーで掻き出す作業に加えて、名産の雄勝石でつくられた何百枚ものスレート屋根を取り外し、瓦を磨き直す作業に明け暮れる日々でした。

製薬会社の社員であると同時に、一人の人間としてできることをやっていく。そんな佐藤さんの思いに呼応するかのように、200名以上の社員が現地入りし、作業に参加。支援企業も増え、プロジェクトに関わる人も増えてくると、地域住民にもその気持ちが伝わり、徐々に協力者も増えていったといいます。

「昔からその地域に住んでいる人のなかには、外から人がやってきて何かをしようとすることに対して不安な気持ちを抱く人もいる。社会的信用のある企業が関わることは、地域の課題をより見えやすくすることであり、問題意識を共有できたことは地域の安心感にもつながっていったと考えています」

社会貢献は人と企業を成長させる

雄勝町は震災によって壊滅的な被害を受けましたが、産業の衰退や高齢化、若者人口の減少という社会課題は、これから日本のどの地域でも起こることであり、すでに起こっていること。企業は事業とのバランスのなかでどのようにこうした社会課題と向き合っていくべきなのでしょうか。

「最終的に利益につなげていくことがこれまでのCSRだとしたら、それだけでは事業を継続できない時代になっているのは明らかです。継続するためには人を成長させることが必要で、成長するための学びは社会貢献にあると考えます。私は利益を一切上げていないけれど、それに後ろ指を指されることはないし、むしろこの活動を応援してくれる社風であることは、自分のなかで大きな支えになっています」

たくましく生きる力を持った人々に触れ合いながら、地域に飛び込んでオンもオフもない毎日を送ってきた佐藤さん。モリウミアスに関わることで、効率に捉われていた生き方を省みることも多かったといいます。

「都会では自分の子どもを近所の公園に連れていくだけでも、効率で考えているようなところがあったんですよ。だから、道端の虫を見つけていちいち立ち止まっている子どもを『早く公園に行こう』と急かしたりして。でも、子どもってそういう小さな寄り道からいろんなことを学んでいる。仕事も同じ。効率だけで考えていたら、見逃してしまう部分がたくさんある。それってすごくもったいないことですよね」

一見無駄に見えるようなことが無駄ではなかったと気付くとき、人も企業も成長していくのかもしれません。

「モリウミアスは今も改築を続けていて、サグラダファミリアのように完成することはないのです。だからこそ、ここには人が集い続ける。そして、集った人たちは大人も子どもも新しい価値や視点を見つけて帰っていきます。自然の循環を知り、生きる力に出会うことで人を成長させるモリウミアスが、同じような課題を抱えるさまざまな地域で真似をしてもらえるようなモデルになったらうれしいですね」

▼MORIUMIUS LUSAIL
http://www.moriumius.jp/

文:根岸達朗+プレスラボ

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