目的は「兼業解禁」ではなかった?働き方改革の舞台裏

2017年3月31日

2016年2月、ロートの新CIお披露目の場で、あるトピックが発表されました。それは社外の兼業と、社内における2つの部署の掛け持ちによって、新たな働き方が可能になること。そのニュースは、広くメディアで報じられることになりました。しかしロートでは、「兼業解禁」がここまで大きく取り上げられるとは考えていなかったのです。

大きな反響は想定外!ロートの「兼業解禁」

「ロート製薬が、社員の兼業を解禁する」 ― この新制度がさまざまなメディアに取り上げられ、他社の人事の方からも質問を受けることが増えました。しかし正直なところ、当社の「兼業解禁」がこれほど大きな反響を呼ぶとは思っていませんでした。

それは2016年2月、ロートの新CIとなる「NEVER SAY NEVER」が発表された記者会見の席で、わずかに言及した新制度の一つ。兼業解禁はあくまでも脇役、発表のほんの一部にすぎなかったのです。一方でそれだけ「働き方の改革」に対する世の中の注目度が高いことを、私たちは改めて実感することになりました。

▲2016年2月発表された新CIの紹介動画

そのとき、ロートが発表したのは、「社外チャレンジワーク(=兼業)制度」、そして部署を掛け持ちできる「社内ダブルジョブ(=部署兼務)制度」の2つ。しかしこれらは、会社側がトップダウンで整備したものではありません。

「自分たちが、これから“倍量・倍速”で成長していくために、こんな働き方をしたい!」という、有志の社員が自ら発案した「働き方宣言」が形を変えて生まれたのが、この2つの人事制度だったのです。

食、農業、再生医療といった新しい事業をスタートさせ、事業領域が拡大している中では、社員一人ひとりがこれまでの働き方を変えなければ、単に仕事にあてる時間や人数が増えるだけで、会社や個人の成長には繋がらないのではないかと考えました。
かつての「モーレツ社員」のような、倍量の仕事を残業も辞さずやり遂げた先に成長がある…といった考えではなく、働き方を変えることが倍量・倍速での成長に繋がるという考えに至ったのです。

すべてのはじまりは、「明日のロートを考える」社内プロジェクトから

その社内プロジェクトが生まれたのは、2003年のことでした。「自分たちの会社なのだから、これからどうしていくかを考え、自ら動く。そうすればもっと、仕事は面白くなる。集まったメンバーはみんな、そんな意識を持っていましたね」。当時のプロジェクトメンバーの一員だった墨田康男は、そう振り返ります。

▲入社して10年以上、商品作りのマーケティングに携わってきた墨田

自社が儲かればそれでいいわけではない。明日の世界を創るために、ロートができることは何か?社員も今、目の前にある仕事のことだけに終始していてはいけない。もっと大きな枠組みの中で、中長期的な課題に取り組んでいく必要があるのではないか…。このプロジェクトは「ARK(=明日のロートを考える)」と名付けられ、過去数回、墨田のように部門の枠を越えて集まった有志の社員たちによって実施されてきました。

そして2014年に召集された、ARKプロジェクトの次なるテーマは「人事改革」。15年以上にわたって商品づくりに携わってきた墨田は、それらを生み出す「ヒト」の存在の重さをよく理解していました。そこで彼は「ヒトづくり」に取り組むため、プロジェクト・リーダーとして参画することになったのです。

しかし墨田はまず、当時の人事部長のもとを訪れてこう伝えました。「自分たちは、人事制度そのものを作る気はありません。どうすれば、社員である自分たちが成長できるのかを考えます」。

▲当時、人事に相談に行ったことを思い出す墨田

制度として形にするのは、あくまでも人事部の仕事。ARKプロジェクトで見据えるべきは、いかに自分たちが成長できる働き方を考えていくかに尽きる ― メンバーたちは、当初からそう考えていたのです。

ビジネスシーンが変化する中、「自分たちは本当にこのままでいいのか?」

当時の墨田らが感じていたのは、「このままの働き方を続けていていいのだろうか?」という漠然とした思いでした。時代が移り、社会が変化して、生き方や働き方がどんどん多様になっていく。ロートでも、農業やレストランなどの食分野や、再生医療など、さまざまな新規ビジネスを展開しはじめていました。そんな中、自分たちはいつまでも同じ働き方をしていていいのだろうか―。

「20代、30代で組織を牽引するような人たちがどんどん出てきているのに、自分たちはロート製薬という会社に守られて働いている。それでは、会社はもちろん、日本社会を本気で変えていくことはできないよね、という話が最初に出たんです」

そこでメンバーはまず、ベンチャー企業や最先端を行くIT企業などをたずね、どんな働き方をしているのか徹底的にリサーチ。また、社内外で活躍している人物から話を聞き、そして、ロートの経営理念を改めて紐解き、議論し、自分たちの未来に今必要なことは何かを検討していったのです。

半年間、さまざまな議論を重ねた結果、ARKプロジェクトのメンバーが最終的に会社に提案したのは、「自分たちが倍量・倍速で成長するために」必要な働き方の数々。それは兼業を解禁してほしい…などの要望ではなく、「こういう働き方ができれば、自分たちはこんなに成長します」という社員としての“宣言”でした。

社員の自発的な宣言をサポートすべく、制度づくりに取り組む

ARKプロジェクトから生まれた社員たちの「働き方宣言」は、すべて人事部に届けられました。それらに目を通した人事部は、さまざまな働き方のアイディア ― 兼業や部門兼務のスタイルを「面白いかもしれない」と感じていました。

▲人事総務部 リーダーの山本明子。

「社員たち自身が、こういう働き方ができれば自分たちは成長する、と言っている。だから人事部としては、どうすればそれを具体的に後押しできるか、どうすれば本当の意味で社員の自立や成長につなげられるだろうかと考えました」(以下、山本)

そもそも、社員の「自立」「成長」とは何なのか―?山本らは、改めてその問いと向き合っていったのです。

「大きなキーになるのは、社員たちが自分自身の可能性を一つに限定しないことだと思ったんです。何か一つのことがダメになったとしても、別の選択肢があれば自立し続けることができます。それならば、今必要なのは複数の可能性を持てるきっかけなのではないか、と」。

こうして人事部が作ったのが、部署や会社を越えて働ける制度 ― 兼業ができる「社外チャレンジワーク」と、部署を兼務する「社内ダブルジョブ」、この二つの新たな人事制度だったのです。

兼業や部署の兼務は決して“楽”ではない。自立した社員であるために

2016年の制度導入から約1年がたった現在、社外チャレンジワーク制度は約30名、社内ダブルジョブも約40名の社員が利用しています。これまでと異なる働き方によって、新たな気づきを得ている社員もいれば、さまざまな壁に突き当たっている社員もいるようです。

「マネージャーが社内ダブルジョブ制度を活用して部署を兼務し、不在にすることが増えたことで、本人はもちろんのこと、その部下の育成が進んでいる…などという報告も受けています。いろいろと面白い効果が出てきています」と、山本。

一部では成果が見られるものの、どちらの制度にも、まだまだたくさんの課題があります。本業あるいは本職場とどうバランスを取っていくのか、掛け持ちする双方の職場できちんと成果を出すにはどうしたらいいか―。はじまったばかりだからこそ、社員たちは悩みながら模索を続けています。

「本質的に追及したいことは、社員の自立、そこに尽きます。兼業や部署兼務は、社員にとって決して楽な選択ではないはず。だからこそ成長につながるし、新たな可能性が生まれるきっかけになっていくものだと考えています。」

▲社員の成長と自立をどう促すか。日々、考えています。

「今はまだ、社員の中でも『あの人は部署兼務の人だから』と特別であるような雰囲気がありますが、いつかそうした働き方が完全に浸透していけば、全員の働き方が変わるでしょうし、そうなってはじめて、本当の意味での社員の自立が実現するのだと思います」

新たな試みは、まだはじまったばかり。ロートではこれからも試行錯誤を重ねながら、社員が自立するための働き方を引き続き追及していきます。


取材・文:大島悠+プレスラボ

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