
PRP療法とは
PRP(多血小板血漿)とは、患者の自己血から遠心分離で得られた血小板を豊富に含んだ血漿である。血小板に含まれるα顆粒には創傷治癒を促進させる成長因子が多く含まれており、患部に直接作用して組織の再生や修復を促す。
かつてはPRP療法に対する規制はなかったが、2014年に再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、「再生医療等安全性確保法」)が施行され、PRP療法も再生医療としての規制対象となった。PRP療法の実施には複数の書類準備や申請対応が必要となった。オートロジェル システムは適応症を含む医療機器として薬事承認を取得され、薬事承認の範囲での治療であれば、再生医療等安全性確保法に関わる審査手続きは不要となる。
オートロジェル システムとは
オートロジェル システムは患者の自己血から分離したPRPをゲル化させるシステムである。デバイスセットと薬剤セットで1つのパッケージとして提供されている。事前に薬剤セットに含まれる塩化カルシウムとトロンビンを混合した上で、患者から採血して遠心分離を行い、PRPを採取する。その後、PRPにアスコルビン酸を添加し、次に塩化カルシウム添加トロンビンを加えてゲル化させ、PRPゲルを患部に塗布するという流れである(図1)。
次からは、実際に私が経験した症例を紹介します。
症例1
81歳男性、右足背皮膚潰瘍。突然右足背の腫脹と疼痛が出現し、骨折と蜂窩織炎からの菌血症にて当院整形外科で入院治療を受けたが、足背の皮膚壊死となり当科に転科となった。高齢で複数の既往もあったため、保存的治療を行うこととなった。フィブラスト®スプレーで約1か月の治療を継続したが、十分な効果が得られず、オートロジェル システムでの治療に切り替え、計8回施行した。足背などの曲面となる部位ではPRPゲルが安定しないため、潰瘍部の周囲にストーマ用の皮膚保護剤で土手を作り、その中にPRPゲルを貼付し、メロリンガーゼで保護するという手法を用いた。
1回目施行後から潰瘍の収縮を認めた。経過中にガーゼの汚染が強くなった場合は、抗菌薬の投与で対応した。8回目のPRPゲル貼付(50日目)以降も従来使用していた外用薬などで治療を継続した。自己処置が可能となったため退院し、PRP療法終了後66日で治癒を確認した。
症例2
66歳男性、右下腹部皮膚潰瘍。当院心臓血管外科でバイパス術を施行後、創感染およびリンパ瘻、創の離開により陰圧閉鎖療法を行ったが治癒に至らず、当科へ紹介となった。人工物の露出はないが一部深い潰瘍を認めた。PRP療法が合計3回(3週間)施行した。
初回のPRPゲル貼付の2日後、メロリンガーゼ下のドロドロしたPRPゲルを拭うと、潰瘍自体はきれいな状態であった。2回目(6日目)は潰瘍の深い部位にも小さく切って詰め込んだ。2回目の貼付から6日後には著明な収縮を認めたが、念のため13日目に3回目の貼付を行った結果、治療開始から19日目には治癒を確認した(図3)。
症例3
59歳男性、左下腿皮膚潰瘍。2018年に左踵骨骨折とアキレス腱断裂により手術を受けたが皮膚潰瘍が治癒せず、2020年には骨髄炎で手術を受けた。その後も、潰瘍が生じ、縮小傾向にあったものの、2023年1月より皮膚潰瘍が拡大した。リベド血管症および甲状腺機能低下症の既往を有する。
当科で局所陰圧閉鎖療法を行ったが効果が見られず、計7回のPRP療法とフィブラスト®スプレー、バラマイシン®軟膏塗布による治療を施行した。5回目のPRPゲル貼付後に潰瘍部の大幅な縮小を認め、外来通院となった。PRP療法終了後約3か月で治癒に至った。
症例4
74歳女性、左外果皮膚潰瘍。クロウ・深瀬症候群(難病指定)という既往を有する。転倒後に生じた傷を他院で2か月治療を受けたが効果が見られず、当科へ紹介となった。本症例のみ外来にて7回のPRP療法を施行した。5回目くらいまでは順調に潰瘍部の縮小を認めたが、最後のPRP療法後に創部感染を起こし、潰瘍が拡大した。抗生剤により現在は鎮静化しているが、PRP療法施行中の感染症例であった。
PRP療法に対する所感
私の経験上、PRP療法が適すると考えられる創傷は、既存の治療で改善が見られない潰瘍や、高齢者で外科的治療は負担が大きいと考えられるケースである。また、血行再建した後の重症虚血肢(重症下肢虚血)も対象になると考えられます。
一方で、PRP療法が適さないと考えられる創傷は、感染が疑われる潰瘍である(添付文書にて「活動性感染を伴う創傷」は禁忌と設定されている)。症例4でも示したとおり、感染を回避できれば、オートロジェル システムは難治性皮膚潰瘍の治療法としては有用であると考える。感染の兆候があれば早期の抗生剤投与が必要であり、特に外来通院では患者にも十分理解を得た上でPRP療法を行うことが望ましい。
Q&A
Q:治療早期での効果が認められる印象はあるか
A:1回目の施行から「効いている」と感じることがあり、2回目には潰瘍が縮小したケースが多い印象である。
Q:PRPゲルの交換サイクルについて
A:その時々の状況によるが、貼付後2日目に交換することもある。ただし、懸念もあるため、貼付後1日目(24時間以降)には状態確認を行いたいと考えている。
Q:オートロジェル システムのドレッシングは何が適切ですか?
A:私は一般のガーゼを用いるとゲルが吸われてしまう印象もあるので、メロリンガーゼを使用しています。最近ではエスアイエイドもよく使っています。他のご施設でどのようなドレッシングを行っているのかは私も興味があります。
Q:PRPゲル貼付中の観察点や患者の行動制限について
A:観察点は、潰瘍部の感染に留意することである。ドレッシングの方法は一般的な手法で問題なく、ドレッシングが固定されていればリハビリは可能ですし、患者の行動制限は設けていない。