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アトピー性皮膚炎に於ける皮膚バリア機能の形成に関わる新たな因子を発見

アトピー性皮膚炎に於ける皮膚バリア機能の形成に関わる新たな因子を発見 ~東京大学とロート製薬の皮膚疾患に於ける共同研究~

2019年7月19日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:杉本雅史)は、人生100年時代への挑戦をテーマに健康寿命の延伸をめざし、既存のヘルス&ビューティ事業に加えて最先端の「再生医療」や健康の源となる「食」についての事業を進めています。東京大学医学部皮膚科学教室並びに人体病理学教室との共同研究にて、アトピー性皮膚炎患者の遺伝子解析を進めた結果、角層バリア機能の形成に関わる因子「KPRP」の発見とその機能の解明に至りました。本研究内容は米国研究皮膚科学会と欧州研究皮膚科学会発行の学術誌「Journal of Investigative Dermatology」(オンライン、2019年3月21日付)に掲載されました。

※KPRP = Keratinocyte Proline Rich Protein

研究成果のポイント

  • 日本人のアトピー性皮膚炎の重症度とKPRPの遺伝子型に有意な相関があることが示された
  • アトピー性皮膚炎患者の罹患部位の皮膚ではKPRPの発現量が有意に低下していた
  • KPRPは細胞間接着に関わる構成因子と相互作用することが示唆された

⇒KPRPを介して皮膚表面の角層バリア機能を高めることで、アトピー性皮膚炎の発症や重症化を予防することが期待される

研究の背景

アトピー性皮膚炎(AD:Atopic dermatitis)は炎症を伴う一般的な皮膚疾患の一つで、遺伝学的要因や環境要因の双方により引き起こされる疾患として知られています。近年の研究により、その病態形成に皮膚バリア機能の欠損と皮膚免疫の異常の両方が関わっていることが明らかとなってきています。これまで行われたゲノム配列の関連解析の結果により、Filaggrin(FLG)の遺伝子型とアトピー性皮膚炎の発症に相関があることが示されていますが、1つの因子ではアトピー性皮膚炎の発症や増悪化を説明するには十分ではなく、その他の因子の寄与も考えられています。そこで本研究では、新たなアトピー性皮膚炎の病態形成に関与する因子を特定することを目的としました。

KPRPについて

先行研究より、KPRPは特に表皮ケラチノサイトにて発現し、正常皮膚では角層直下の顆粒層にて局在することが知られていました。マウスに於いては角層形成が始まる胎生期後半からKPRPの発現が上昇していることが明らかにされていました。本研究ではアトピー性皮膚炎の病態研究からKPRPの角層バリア形成への寄与に関して新たな発見に至りました。

研究の成果

KPRP遺伝子の一塩基多型(rs4329520)とADの重症度との関係性

ADの重症度とKPRP遺伝子の一塩基多型との相関を解析したところ、中等症、重症AD患者ではrs4352920遺伝子座にてTTの遺伝子型を持つ方が50%、一方で健常または軽症AD患者では29%でした(表1)。またχ2乗検定にて、TT遺伝子型をもつ方とAD重症度は有意に相関し、その重症化リスクは2.52倍(95%信頼区間:1.39-4.56; P=0.0021)であることが分かりました。

<試験方法>
■表1 AD患者118名、健常人86名の血液サンプルよりゲノムを抽出し、KPRP遺伝子のrs4329520の一塩基多型に対応するプローブを作成し、デジタルPCR法にて遺伝子型の定量解析を行った。

AD患者の罹患部位の皮膚に於けるKPRP発現

健常人とAD患者の皮膚にてKPRPの発現を確認したところ、AD罹患部位では有意にその発現が低下していることが確認されました(図1)。発現低下の原因を探るため、AD罹患部位の炎症に関与するIL-4、IL-13、インターフェロンγ(IFNγ)をヒト表皮ケラチノサイトに添加したところ、KPRP遺伝子の濃度依存的な発現低下が確認されました(図2)。

<試験方法>
■図1 健常部位とAD罹患部位より採取した皮膚より切片を作成し、免疫染色法にてKPRPタンパク質の局在を確認した。また各皮膚よりRNAを抽出し、cDNA合成を行った後、リアルタイムPCR法にてKPRP遺伝子の発現量を比較した。(n=4, **:P<0.01, Mann-Whitney U test)
■図2 ヒト表皮ケラチノサイトにIL-4、IL-13、IFN-γを0–10ng/mlの濃度にて添加を行い、96hr後にRNAを抽出し、cDNA合成を行った後、リアルタイムPCR法にてKPRP遺伝子の発現量を比較した。(n=4, *:P<0.05, Steel test)

KPRPのヒト健常皮膚に於ける発現局在と細胞接着に関わる構成因子との相互作用

KPRPタンパク質のヒト表皮に於ける発現局在を詳細に確認したところ、角層直下の顆粒層3層構造の第2層目に一定間隔で局在することが分かりました(図3)。また、細胞内でKPRPタンパク質と相互作用のあるタンパク質を解析した結果、プラコフィリン1(PKP1)という細胞接着に関わる構成因子の1つと相互作用があることが分かりました(図4)。

<試験方法>
■図3 ヒト健常皮膚より切片を作成し、蛍光多重免疫染色法にてKPRPタンパク質とFLG(フィラグリン)タンパク質の局在を確認した。
■図4 ヒト表皮角化細胞株にKPRPタンパク質を強制発現させ、プルダウン法にてKPRPタンパク質と相互作用するタンパク質を溶出した。溶出液を用いてウェスタンブロット法にて細胞接着に関与する各タンパク質の検出を行った。

今後の展望

今回アトピー性皮膚炎の重症化に関わる可能性のある新たな因子としてKPRPを特定しました。KPRPを介して皮膚表面の角層バリア機能を高めることで、アトピー性皮膚炎の重症化や発症を予防する新たな創薬ターゲットとなることが期待されます。今後も皮膚疾患研究を通じて患者様のQOL向上に繋がる治療法の開発に取り組んでゆきます。

用語解説

  • FLG(フィラグリン)…表皮の上層で産生され、角層にてケラチンを束ねることに関与する。最終的に分解されアミノ酸となり角層の保湿に寄与する。
  • 一塩基多型…人口集団に於いて1%以上の頻度で出現するゲノム上の一塩基の相互置換のこと。
  • IL-4, IL-13, IFN-γ(インターロイキン-4, -13, インターフェロン-ガンマ)…ヘルパーT細胞から分泌されるタンパク質。ADの病態形成に寄与することが知られている。
  • DSP, PKP1, CTNG(デスモプラキン, プラコフィリン1, ガンマカテニン)…細胞同士を接着させるデスモソームの構成因子。デスモソームの構造異常が様々な炎症性皮膚疾患の原因となることが知られている。

参考文献

Lee WH, Jang S, Lee JS, Lee Y, Seo EY, You KH, et al. “Molecular cloning and expression of human keratinocyte proline-rich protein (hKPRP), an epidermal marker isolated from calcium-induced differentiating keratinocytes.”
Journal of Investigative Dermatology (2005);125:995-1000.

Suga, Hiraku, Tomonori Oka, Makoto Sugaya, Yasunari Sato, Tsuyoshi Ishii, Hiroyuki Nishida, Shumpei Ishikawa, Masashi Fukayama, and Shinichi Sato. “Keratinocyte Proline-Rich Protein Deficiency in Atopic Dermatitis Leads to Barrier Disruption.” Journal of Investigative Dermatology (2019). doi:10.1016/j.jid.2019.02.030