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眼の分化誘導に有用なiPS細胞の作製に成功

眼の分化誘導に有用なiPS細胞の作製に成功 ~角膜の内皮細胞や実質細胞などの再生医療研究、さらなる進展へ~

2020年3月24日

大阪大学 大学院医学系研究科の林竜平 寄附講座教授(幹細胞応用医学)、川崎諭 特任准教授(常勤)(眼免疫再生医学共同研究講座)、西田幸二教授(眼科学、先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門)、大久保徹共同研究員(ロート製薬株式会社、幹細胞応用医学)らの研究グループは共同で、眼周囲間葉(POM)細胞※1の単離に有用なレポーターiPS細胞株の樹立に成功し、狙い通りPITX2遺伝子※2の発現に応じて緑色蛍光を発することを確認しました。林竜平寄附講座教授らのグループは、これまでに、ヒトiPS細胞から眼全体の発生を模倣した、様々な眼の細胞を含む多層状コロニー(SEAM)の誘導に成功しており1-2)このレポーターiPS細胞株を用いてSEAMを誘導すると、その中にPOM細胞が含まれることが明らかとなりました。さらに、SEAM中で誘導されるPOM細胞は緑色蛍光を目印に単離することが可能で、単離後の培養も可能であることを示すことができました。本成果により、POM細胞を由来とする角膜内皮細胞や角膜実質細胞など、眼科領域の再生医療に応用可能な細胞の分化誘導研究が促進されることが期待されます。本研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」に3月13日に掲載され、また、ボストンで6月24日から開かれる国際幹細胞学会2020でのポスター発表が予定されています。

研究成果のポイント

  • ゲノム編集技術により眼周囲間葉(POM)細胞の単離に有用なレポーターiPS細胞株を樹立し、当該細胞株はゲノム編集前のiPS細胞株と同様に多能性を有していることが示された
  • これまで、角膜内皮細胞や角膜実質細胞などをiPS細胞から分化誘導する方法は確立されていなかった
  • POM細胞は、角膜内皮細胞、角膜実質細胞、虹彩実質細胞、毛様体、線維柱体、強膜など、眼を構成する多種多様な細胞・組織に誘導される
  • 眼全体の発生を模倣した2次元培養系による、様々な眼の細胞を含む多層状コロニー(SEAM)を誘導するとその中にPOM細胞が含まれることを明らかにした
  • SEAM中のPOM細胞を単離し、培養することに成功し、さらにその状態でPOM細胞マーカーの発現が維持されていることを明らかにした

研究の背景

iPS細胞は、体細胞をもとに人工的に作成した多能性幹細胞のうちの一つです。体を構成するほとんどの細胞へと分化誘導できるとされ、また、倫理的な問題も少ないため、医薬品の開発、再生医療等製品へのソースとして非常に有用であるとして用いられています。
これまでに、眼の再生医療については、iPS細胞から作製された角膜上皮細胞シートの臨床研究が開始されていますが、角膜内皮細胞や角膜実質細胞などの細胞をiPS細胞から分化誘導する方法は確立されていません。その原因の一つとして、そのもとになる眼周囲間葉(POM)細胞の分化誘導方法やメカニズムへの理解が十分ではないことが挙げられます。POM細胞は、角膜内皮細胞、角膜実質細胞、虹彩実質細胞、毛様体、線維柱体、強膜など、眼を構成する多種多様な細胞・組織に誘導することが知られています。
PITX2遺伝子は、第4の胚葉ともいわれる神経堤細胞に由来するPOM細胞の発生にも重要であり、マーカーとして用いられています。
本研究では、このPOM細胞のマーカーとなるPITX2遺伝子に着目し、細胞が生きたまま、POM細胞を追跡できるシステムの確立を試みました。具体的には、ゲノム編集技術により、PITX2遺伝子の発現と連動して緑色蛍光タンパク質(EGFP)が発現するiPS細胞を樹立すること、また樹立された細胞を用いて、POM細胞が単離できるか、単離されたPOM細胞はPOM細胞が本来持つべき特徴を有しているか確認することを目的としました。

本研究の成果

研究グループはまず、PITX2の下流にリボソームを呼び込むためのIRES2配列を挟んで、EGFPが配置するDNA配列をデザインし、これをTranscription activator-like effector nuclease (TALEN)というゲノム編集技術によって、ヒトiPS細胞のゲノムにヘテロ接合性に組み込みました(図1)。このシステムにおいて、PITX2とEGFPのmRNAはつながって転写されますが、タンパク質の段階でそれぞれ独立して翻訳され、その後それぞれの本来の機能を発現すると考えられます。
樹立したレポーターiPS細胞株は、ゲノム編集前のiPS細胞と同じように多能性マーカーを発現していることを確認しました。さらに、PITX2の発現誘導を試みると、一部の細胞塊がEGFPを発することが確認されました(図2)。また、免疫蛍光染色法により、PITX2を赤色に染色すると、EGFPの蛍光を示したものと同じ細胞塊が赤色に染色され、PITX2とEGFPが同一の細胞塊で発現していることが認められました。さらにウェスタンブロッティングによる解析でも、新しく樹立したレポーターiPS細胞ではPITX2とEGFPが連動して発現していることが確認できました。このことから、狙い通り、PITX2の発現状態を緑色蛍光で確認できるiPS細胞が樹立できたと考えられました。
さらに、樹立したレポーターiPS細胞で、試験管内で眼の発生を再現している同心円状の帯状構造(SEAM)を誘導できることを、角膜上皮細胞(PAX6/p63)、レンズ細胞(α-crystallin)、神経網膜(CHX10)、網膜色素上皮(MITF)の免疫蛍光染色により確認しました(図3)。緑色蛍光を示す細胞だけを単離し、遺伝子発現解析をすると、POM細胞の陽性マーカーである、PITX2, FOXC1、FOXC2, p75等は発現が高く、神経堤マーカーでPOM細胞では発現が低下するとされるSOX10は変化しておらず、POM細胞が適切に誘導されたことが示唆されました。さらに、角膜内皮細胞のマーカーであるTFAP2B、COL8A2、COL8A1遺伝子の発現も高かったことから、このPOM細胞は角膜内皮細胞へ分化できる可能性が示されました。単離したPOM細胞は特定の条件下で培養をすることが可能であり、免疫蛍光染色法によりPITX2、FOXC1遺伝子の発現も認められました。以上の結果から、このレポーターiPS細胞株を用いて誘導したSEAMにはPOM細胞が存在しており、その遺伝子プロファイルもPOM細胞を示すものであり、POM細胞を生存した状態で単離し、培養することが可能であることが示されました。

図1.レポーターiPS細胞株のデザイン
ゲノム編集技術により、ヒトiPS細胞のゲノムにおいて、PITX2遺伝子の下流にIRES2配列とEGFP遺伝子を導入し、PITX2遺伝子の発現に応じて、EGFPが発現し、細胞が緑色の蛍光を発するシステムを構築した。

図2.レポーターシステムの確認
PITX2の発現誘導をかけると、緑色の蛍光を発する細胞塊が認められた。

図3.レポーターiPS細胞株を用いたSEAMの誘導
レポーターiPS細胞株から正常なSEAMが誘導された。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、この新しく樹立したPITX2のレポーターiPS細胞株を用いてPOM細胞を誘導することで、ヒトの発生過程においてPOM細胞がどのように誘導されるかのメカニズム解析が可能となります。また、POM細胞を単離し、その後、種々の細胞への分化誘導研究に用いることで、例えば、難病の再生医療につながる角膜内皮細胞への効率的、安定的な分化誘導法の確立、そして、得られた角膜内皮細胞を用いることで、試験管内での疾患モデルの作製などへの応用が可能であると考えられます。

用語説明

  • ※1:眼周囲間葉(POM;Periocular Mesenchymal)細胞
    眼周囲間間葉(POM)細胞は外胚葉、中胚葉、内胚葉、に次ぐ、第4の胚葉ともいわれる、外胚葉由来の神経堤細胞から分化する一群の細胞。POM細胞からはさらに角膜内皮細胞、角膜実質細胞、虹彩実質細胞、毛様体、線維柱体、強膜等が分化するといわれている。
  • ※2:PITX2(Paired like homeodomain 2)遺伝子
    発生に重要なホメオボックス遺伝子群の一つであり、脊椎動物の発生において左右の非対称性を形成する主要な遺伝子のうちの一つ。本研究では、神経堤由来のPOM細胞でも重要な機能を有していることから、POM細胞のマーカー遺伝子として選択した。

特記事項

大阪大学とロート製薬は幹細胞技術(培養法・分化誘導法・細胞単離法・評価技術など)とその応用による再生治療法の開発を目指し、2014年に大阪大学大学院医学系研究科附属最先端医療イノベーションセンターに幹細胞応用医学寄附講座を設立し、間葉系幹細胞やiPS細胞を用いた、眼や全身疾患に対する再生医療の開発・実用化を目指した共同研究を行っています。

本研究成果は、米国科学雑誌『Journal of Biological Chemistry』(3月13日付け:日本時間3月14日)に掲載されました。
タイトル:“Generation and validation of a PITX2-EGFP reporter line of human induced pluripotent stem cells enables isolation of periocular mesenchymal cells.”
著者名:Toru Okubo, Ryuhei Hayashi, Shun Shibata, Yuji Kudo, Yuki Ishikawa, SakiInoue, Yuki Kobayashi, Ai Honda, Yoichi Honma, Satoshi Kawasaki, Kohji Nishida

本研究は、日本医療機構(再生医療実現拠点ネットワークプログラム 再生医療の実現化ハイウェイ)の助成を受けて行われました。

参考文献

  • 1) Hayashi R. et al. Co-ordinated ocular development from human iPS cells and recovery of corneal function. Nature. 2016 Mar 17;531(7594):376-80.
  • 2) Hayashi R. et al. Coordinated generation of multiple ocular-like cell lineages and fabrication of functional corneal epithelial cell sheets from human iPS cells. Nat Protoc. 2017 Apr;12(4):683-696.