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結膜における過剰な免疫反応とバリア機能の低下がドライアイを伴った季節性アレルギー性結膜炎で起きている可能性を発見

研究開発

結膜における過剰な免疫反応とバリア機能の低下がドライアイを伴った季節性アレルギー性結膜炎で起きている可能性を発見

2020年10月7日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、ドライアイ・ブタクサ誘発性アレルギー性結膜炎モデルを用いて、ドライアイが季節性アレルギー性結膜炎に及ぼす影響について研究を行いました。その結果、本モデルでは、結膜において過剰な免疫反応が起きていることと、バリア機能を維持する杯細胞およびe-cadherinの発現が低下することを発見しました。本研究内容は、WOC 2020 (6月26~29日、Web開催)にてポスター発表しました。この研究成果によって、ドライアイを伴った季節性アレルギー性結膜炎の症状改善に有用な製品の開発が期待されます。

研究成果のポイント

  • ドライアイ・ブタクサ誘発性アレルギー性結膜炎モデルの結膜で、Th2サイトカイン(il4)、好酸球マーカー(prg2)、および炎症誘発性サイトカイン(il6)の遺伝子発現および結膜に浸潤する好酸球数が上昇することを発見した。
  • 本モデルの結膜で杯細胞とe-cadherinの発現が低下することを発見した。

研究の背景

ドライアイを有する季節性アレルギー性結膜炎の患者様では、花粉シーズンに症状が悪化することが報告されており、ドライアイがアレルギー症状を悪化させると考えられています。本研究では、ドライアイを伴うブタクサ誘発性アレルギー性結膜炎モデルを用いて、ドライアイがアレルギー性結膜炎の症状を悪化させる機序の解明を目指して研究を開始しました。

結果

本モデルでは、アレルギー性結膜炎の臨床症状が有意に上昇しました。

アレルギー性結膜炎の臨床症状について、目の引掻き行動および臨床スコアを計測することで測定しました。その結果、アレルギー群と比較して、本モデルでは、目の引掻き回数および臨床スコアが有意に上昇しました。

試験方法:ブタクサ花粉(RW)点眼惹起後、引掻き回数をSCRABA®-Real システムにて解析した。 平均値±標準誤差 # p<0.05 with t-test vs アレルギー群; 各群例数 n=8 ロート研究所実施

試験方法:臨床スコアはRW点眼惹起後に、結膜浮腫、走化性、充血および目脂についてMagone等の方法に従いスコア化した。平均値±標準誤差 ## p<0.01 with t-test vs アレルギー群; 各群例数 n=8 ロート研究所実施

本モデルでは、アレルギー性結膜炎に関連する炎症遺伝子発現が有意に増加しました。

本モデルにおいて、炎症関連の遺伝子発現を測定しました。その結果、本モデルはアレルギー群と比較すると、Th2サイトカイン(il4)、好酸球マーカー(prg2)、および炎症誘発性サイトカイン(il6)が有意に増加しました。この結果から、本モデルの結膜では、過剰な免疫反応が起きていると考えられます。

試験方法:結膜組織における遺伝子発現をqPCRにて解析した。平均値±標準誤差 # p<0.05 with t-test vsアレルギー群; 各群例数 n=8 ロート研究所実施

本モデルでは、結膜に浸潤する好酸球数が上昇しました。

本モデルにおいて、結膜中の好酸球数を計測しました。その結果、本モデルは、アレルギー群と比較して、結膜に浸潤する好酸球の数が有意に増加しました。この結果から、本モデルでは、炎症状態が強くなっていると判明しました。

試験方法:結膜の病理切片を作製し、ギムザ染色で染色された好酸球数を計測した。平均値±標準誤差 # p<0.05 with t-test vsアレルギー群; 各群例数 n=8 ロート研究所実施

本モデルでは、結膜の杯細胞が有意に減少しました。

本モデルにおいて、結膜中の杯細胞数をPas染色で計測しました。その結果、本モデルは、アレルギー群と比較して、有意に杯細胞が減少すると判明しました。

試験方法:結膜の病理切片を作製後、Pas染色を行い、染色された杯細胞数を計測した。平均値±標準誤差 # p<0.05 with t-test vs アレルギー群; 各群例数 n=8 ロート研究所実施

本モデルでは、結膜のe-cadherinの発現量が有意に低下しました。

本モデルにおいて、結膜上皮のバリア機能に関連するe-cadherinの発現量を解析しました。その結果、本モデルではアレルギー群と比較して、e-cadherinの発現量が有意に低下しました。この結果から、本モデルでは、結膜のバリア機能が低下することが分かりました。

試験方法:結膜の病理切片を作製後、抗-ecadherin抗体(赤)で免疫染色を行い、染色領域の画像解析を行った。平均値±標準誤差 # p<0.05 with t-test vs アレルギー群; 各群例数 n=8 ロート研究所実施

まとめ・考察

ドライアイ・ブタクサ誘発性アレルギー性結膜炎モデルにおいて、結膜における炎症因子(il4, il6, prg2)、結膜に浸潤する好酸球数が増加することが判明しました。炎症状態が悪化することで杯細胞の減少と、結膜上皮層におけるバリア機能(e-cadherin発現)が低下することを発見しました。バリア機能の低下は結膜組織への抗原侵入を増加させ、過剰な臨床症状を起こすことが示唆されます。本研究から、ドライアイを伴った季節性アレルギー性結膜炎においても同様の機序の連鎖により過剰なアレルギー反応が起きている可能性が考えられます。

用語説明

  • 臨床スコア:即時相のアレルギー症状である、結膜浮腫、走化性、充血、目脂によって0~3に段階付けされた基準スコア。参考文献:Magone MT, Chan CC, Rizzo LV, Kozhich AT, Whitcup SM. A novel murine model of allergic conjunctivitis. Clin Immunol Immunopathol. 1998;87(1):75-84.
  • Th2サイトカイン遺伝子:アレルギーの特徴となるサイトカインをコードする遺伝子。アレルギーの主要サイトカインはIL4、IL5、IL13がある。
  • Prg2遺伝子:好酸球から産生される主要塩基性タンパク質をコードする遺伝子。Prg2タンパクは肥満細胞および好塩基球からヒスタミン放出を誘導し、好中球を活性化する。
  • e-cadherin:上皮組織の維持と恒常性に寄与し、上皮の構造的および機能的剛性の維持に重要な役割を果たしている。

動物実験における倫理的配慮について

本研究は「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」等に基づいた機関内規程に準拠し実施しています。