日本初、肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤ADR-001治験開始
新潟大学とロート製薬の再生医療研究開発
2017年7月27日
国立大学法人新潟大学
ロート製薬株式会社
国立大学法人新潟大学(本部:新潟市、学長:髙橋姿、医学部長:牛木辰男)大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野 寺井崇二教授とロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:吉野俊昭、以下「ロート製薬」)は新しい治療方法の開発が望まれている肝硬変を対象とした再生医療研究開発を進めて参りました。
この度、日本初の肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤ADR-001の治験を、治験責任医師寺井崇二教授と新潟大学医歯学総合病院(新潟市、病院長:鈴木榮一)にて開始することをお知らせ致します。
背景
肝硬変は、肝臓の組織が炎症を繰り返すことによって線維化し硬くなる病気です。慢性的な炎症により、肝細胞の変性・壊死と肝再生が繰り返され、その過程で肝臓内に線維化が生じ、肝硬変により肝臓癌が発生する危険性が高まることが知られています。肝硬変の病因としては、肝炎ウイルスによるものが多く、特にC型肝炎ウイルス(以下、「HCV」)による割合が最も多く、HCVのキャリアは国内で150万~200万人存在すると推定されています。HCV感染者の約70%で感染が持続し、慢性肝炎へと移行した場合、肝硬変や肝臓癌へと進展します。慢性C型肝炎が原因で肝硬変になった患者では1年に約5~8%が発癌し、肝臓癌患者の約2/3が肝硬変を合併しているという報告があります。初期の段階では、自覚症状がほとんどなく(この時期を「代償性肝硬変(だいしょうせいかんこうへん)」といいます)、症状の進行に従い肝機能が低下し、腹部に水がたまる腹水や黄疸、脳症などの症状が現れます(この時期を「非代償性肝硬変(ひだいしょうせいかんこうへん)」といいます)。進行した肝硬変の治療法としては肝移植がありますが、肝硬変そのものを治療する方法はほとんどなく、非代償性肝硬変患者に対しては、対症療法のみで有効な治療方法がないのが現状で、新たな肝硬変治療方法の開発が望まれております。
肝硬変では、肝線維化が特徴ですが、肝線維化の改善にはコラーゲンをはじめとした細胞外基質の溶解、肝星細胞(かんせいさいぼう)の活性化抑制、炎症反応の抑制及び、肝障害の抑制に有効と考えられています。間葉系幹細胞を用いた治療効果は、細胞が産生するサイトカインや成長因子等の液性因子を介して治療効果を発揮すると考えられており、ロート製薬で製造したADR-001の構成細胞を用いた、マウス肝硬変モデル、マウスNASHモデルでの検討で、肝線維化の改善が認められました。
(用語説明)
「肝星細胞」:肝細胞に近接する細胞で、炎症により活性化されます。活性化された肝星細胞はコラーゲンをはじめとした細胞外基質を産生し線維化の形成に関与します。
「NASH」:Non-alcoholic steatohepatitis 非アルコール性脂肪肝炎
脂肪由来幹細胞による肝機能の改善
ADR-001について
ロート製薬では再生医療の研究・開発を促進するため、2013年に「再生医療研究企画部」を新設し、脂肪幹細胞に着目した再生医療等製品の早期実用化を目指しております。
ロート製薬が開発を進めている、「ADR-001」は他家脂肪組織由来幹細胞を構成細胞とする細胞製剤です。脂肪組織に含まれる幹細胞を、動物由来のウイルス感染のリスクを考えた動物由来原料不含有で、脂肪由来幹細胞の能力を最大限に引き出す独自の無血清培地で培養しております。脂肪組織は組織中に多くの間葉系幹細胞を含み、採取時の侵襲性が比較的低く、手術時など余剰組織となるケースもあることから、比較的入手が容易であり、他家脂肪細胞による同種移植のため、必要な患者さんに迅速に提供できるメリットがあります。投与は静脈内点滴投与のため患者さんの負担も少ないのが特徴です。2020年度の承認を目指して治験を推進してまいります。
治験概要
肝硬変患者を対象とするADR-001の第I/II相臨床試験