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抗アレルギー剤「トラニラスト」が細菌によって増悪するアレルギー反応を抑えることを発見しました

研究開発

アレルギー性結膜疾患が増悪するメカニズムを研究。 抗アレルギー剤「トラニラスト」が 細菌によって増悪するアレルギー反応を抑えることを発見しました。

2018年3月15日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:吉野俊昭)は、花粉やハウスダストにより起こるアレルギー性結膜疾患が増悪するメカニズムについて長年研究を進めております。その中で、細菌によって症状が増悪するアレルギー性結膜疾患について研究を行い、黄色ブドウ球菌の細胞壁類似タンパク質(以下、細菌由来タンパク質)が角膜上皮細胞に作用し、アレルギー反応を誘発する生理活性物質(ケモカイン)の一つであるRANTESの産生を促進することを発見しました。さらに、抗アレルギー剤の「トラニラスト」がRANTESの産生を抑制することを確認しました。これらの結果から「トラニラスト」は細菌によって増悪するアレルギー性結膜疾患において、アレルギー反応が過剰に誘導されることを抑制することで、治療に役立つことが期待できます。本知見は今後、製品開発に応用してまいります。
尚、今回の成果は、2月15日~16日に、角膜カンファランス2018(2月15日~17日、広島県にて開催)にて発表しました。

研究の背景

アレルギー性結膜疾患は、花粉やハウスダストによりI型アレルギー反応が引き起こされ、目のかゆみや充血などの自覚症状を伴う疾患です。近年、アレルギー性結膜疾患の一つである「アトピー性角結膜炎」の患者の角結膜には、細菌の黄色ブドウ球菌が多数存在していることが報告されており、症状の増悪に関与していると考えられています。しかし、黄色ブドウ球菌がアレルギー症状を増悪させる詳細なメカニズムは十分に分かっていません。
そこで、本研究ではアトピー性角結膜炎の角膜を想定した細胞モデルで、細菌によってアレルギー反応が増悪するメカニズムと、抗アレルギー剤のトラニラストの作用について研究を行いました。

抗アレルギー剤「トラニラスト」について

トラニラストは、アレルギー性結膜疾患の第一選択薬として使用されている抗アレルギー剤で、ヒスタミン等の遊離を抑制するメディエーター遊離抑制作用が知られています。近年は抗炎症作用や細胞増殖抑制作用など、新たな働きが報告されています。

RANTES(regulated upon activation, normal T cell expressed and secreted)について

RANTESは、アレルギー反応に関与する好酸球、T細胞を呼び寄せる生理活性物質(ケモカイン)です。RANTESの発現上昇は、アレルギー反応が過剰に促進される一因となっています。RANTESの発現を抑制することはアレルギー反応の増悪抑制に有用であると考えられます。

結果

結果1:細菌由来タンパク質は角膜上皮細胞に作用し、RANTESの産生を誘導する

アトピー性角結膜炎の角結膜には、細菌の黄色ブドウ球菌が多数存在することが報告されていますが、黄色ブドウ球菌の細胞壁のタンパク質は、細胞に認識されると炎症を引き起こすことが知られています。そこでアトピー性角結膜炎の角膜を想定した細胞モデルとして、黄色ブドウ球菌の細胞壁類似タンパク質(以下、細菌由来タンパク質)を角膜上皮細胞に作用させた評価系を作成し、アレルギー反応が増悪するメカニズムについて検討を行いました。結果、細菌由来タンパク質は、角膜上皮細胞に作用し、アレルギー反応を引き起こす生理活性物質(ケモカイン)の一つであるRANTESのmRNAおよびタンパク質の発現を誘導することが明らかになりました。

※1 細菌:黄色ブドウ球菌の細胞壁類似タンパク質(細菌由来タンパク質)

試験方法:細菌由来タンパク質を角膜上皮細胞に作用させ、RANTESのmRNAの発現量(定量的リアルタイムPCR法)、タンパク質の発現量(ELISA法)を測定した。(n=3、コントロールを100とする)

結果2:トラニラストは細菌由来タンパク質により誘導されたRANTESの産生を抑制する

細菌由来タンパク質が角膜上皮細胞に作用することで、生理活性物質(ケモカイン)の一種であるRANTESの発現が誘導されることが分かりました。そこで、RANTESの発現に対する、抗アレルギー剤トラニラストの作用について検討を行いました。結果、トラニラストはRANTESのmRNAおよびタンパク質の発現を抑制することが分かりました。

試験方法:あらかじめトラニラストで処理した角膜上皮細胞を細菌由来タンパク質で刺激し、RANTESのmRNAの発現量(定量的リアルタイムPCR法)、タンパク質の発現量(ELISA法)を測定した。(n=3 、コントロールを100とする)

結果3:トラニラストはIκBの活性化を抑制する

RANTESの発現はNF-κBという転写因子によって制御されています。NF-κBは図1に示したように非炎症時、IκBにより不活性化されていますが、炎症時はIκBがリン酸化IκB(活性化IκB)となることで、NF-κBも活性型となり、RANTESの発現が誘導されます。作成した細胞モデルにおいて、細菌由来タンパク質は活性化IκBを増加させましたが、トラニラストは、増加した活性化IκBの量を低下させました。このことから、トラニラストがRANTESの発現を抑制するメカニズムの一つとして、活性化IκBの発現抑制が関わっていることが考えられました。

試験方法:「細菌由来タンパク質のみを作用させた細胞」、「あらかじめトラニラストで処理した後に細菌由来タンパク質を作用させた細胞」の活性化IκBの量を確認。活性化IκBの量はウエスタンブロット法にて測定した。バンドの濃淡は活性化IκBの量を示し、濃淡を画像解析し、数値化したものをグラフに示した。

考察

アトピー性角結膜炎の角膜を想定した細胞モデルにおいて、細菌由来タンパク質が角膜上皮細胞に作用し、アレルギー反応を誘発する生理活性物質(ケモカイン)であるRANTESの発現を誘導することが分かりました。このことから、細菌由来タンパク質がアレルギー反応を増悪するメカニズムの一つとして、RANTESの産生を介していると考えられます。さらに、「トラニラスト」は、RANTESの産生および「活性化IκB」の発現を抑えることで、過剰なアレルギー反応を防ぐ働きがあることも見いだしました。これらの結果から、「トラニラスト」は、細菌によって増悪するアレルギー性結膜疾患における症状を改善することが期待できます。

<用語解説>

アレルギー性結膜疾患

I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で、何らかの自他覚症状を伴うものと定義される疾患。
症状として、結膜(白目部分の粘膜等)の炎症、目のかゆみ、目やに、涙目などがあげられます。
大別するとアレルギー性結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季カタル、巨大乳頭結膜炎に分類されます。

アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインより引用

黄色ブドウ球菌

ヒトや動物の皮膚、消化管常在菌であるブドウ球菌の一つです。

ケモカイン

白血球が関わる炎症に関与します。RANTES、MCP-1、IL-8などが知られています。