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ユーカリ油に表皮バリア機能を亢進する作用を解明

研究開発

ユーカリ油に表皮バリア機能を亢進する作用を解明 ―表皮保湿因子の発現と皮膚バリア関連因子の産生を促進する新技術―

2021年6月2日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:杉本雅史)は、「Connect fot Well-being」の実現に向けた挑戦のひとつとして皮膚疾患研究に取り組んでおります。今回、研究拠点ロートリサーチビレッジ京都にてユーカリ油に関する機能性研究を進めた結果、表皮角化細胞(ケラチノサイト)※1の天然保湿因子であるフィラグリン※2の遺伝子発現とタイトジャンクション※3構成因子のオクルーディン遺伝子発現並びにクローディン-1※4のタンパク質産生に寄与することを明らかにしました。

研究成果のポイント

  • ユーカリ油に表皮バリア機能に関わる因子の遺伝子発現亢進並びにタンパク質産生を促進する作用を発見
  • 皮膚バリア機能破綻を伴う皮膚症状に対するユーカリ油の応用が期待される

研究の背景

ユーカリ油はユーカリの葉から抽出された油で、これまでに消炎、解熱、鎮痛、殺菌作用などを持つことが知られており、外皮用薬に広く使用されています。しかしながら、炎症性皮膚疾患の治療に広く使われてきた実績があるものの、詳細な作用機序に関する知見は少ないのが現状です。
今回の研究では、皮膚炎治療の重要なターゲットの一つである皮膚バリア機能に関与する因子に着目し、ケラチノサイトを用いてユーカリ油の作用機序の解明を試みました(図1)。

図1 皮膚バリア機能に関与する因子

結果

ユーカリ油はケラチノサイトのフィラグリン、オクルーディン遺伝子の発現を亢進させる(図2)

ケラチノサイトを用いた試験にて、角層の保湿に関わるフィラグリン(FLG)の遺伝子発現を濃度依存的に亢進させる作用を見出した。また皮膚バリア機能に寄与するタイトジャンクション構成因子の一つのオクルーディン(OCLN)の遺伝子発現を濃度依存的に亢進させる作用を見出した。

図2 ケラチノサイトに於けるFLG、OCLN遺伝子発現亢進作用

ケラチノサイトにユーカリ油を添加し、24時間後の遺伝子発現をリアルタイムPCR法にて解析した。(n=3, * : P < 0.05, ** : P < 0.01, vs control, Dunnett's test)

ユーカリ油はタイトジャンクション関連因子クローディン-1のタンパク質産生量を亢進させる(図3)

ケラチノサイトを用いた試験にて、タイトジャンクションの構成因子の1つであるクローディン-1(CLDN1)のタンパク質産生を濃度依存的に亢進させる作用を見出した。

図3 ケラチノサイトに於けるCLDN1タンパク質産生量変化

ケラチノサイトに塩化カルシウム(CaCl2)並びにユーカリ油を添加し、120時間の培養後、免疫染色法を用いてCLDN1タンパク質局在並びに産生量を解析した。
上図:CLDN1の免疫染色像、(緑:CLDN1タンパク質、Bar = 200μm)下図:染色の平均総ピクセル輝度を縦軸としたグラフ(n=3, ** : P < 0.01, vs CaCl2 0.25 mM, Dunnett's test)

今後の展望

ケラチノサイトを用いた試験により、ユーカリ油は天然保湿因子であるフィラグリンの遺伝子発現とタイトジャンクション構成因子のオクルーディンの遺伝子発現並びにクローディン-1のタンパク質産生に寄与することが明らかになりました。本研究成果より、ユーカリ油の従来から知られている消炎、解熱、鎮痛、殺菌作用以外にも皮膚バリア機能の亢進に寄与する可能性が示唆されました。今後も皮膚の恒常性維持に関わる成分の研究活動を通じて、お客様のQOL向上に貢献して参ります。

用語説明

※1:表皮角化細胞(ケラチノサイト)
皮膚の最外層を形成する表皮層を形成する主要な細胞。皮膚バリア機能の形成に寄与し、皮膚を外的刺激から保護する役割や皮膚からの水分蒸散を抑制する役割を担う。

※2:フィラグリン(FLG)
皮膚表面の保湿に関わる因子。ケラチノサイトにて産生され、生体内でアミノ酸に分解されその作用を示すことから天然保湿因子とも呼ばれている。

※3:タイトジャンクション
細胞と細胞を強固に結合させ、物質が細胞間を透過するのを阻害し、皮膚内からの水分の蒸散や外部からの異物の侵入を防ぐ。密着結合とも呼ばれ、ヒト皮膚では表皮上層の顆粒層にて形成されている。

※4:オクルーディン(OCLN)、クローディン-1(CLDN1)
表皮バリア機能の一端を担うタイトジャンクションの形成に寄与する因子。これらの因子が細胞同士を接着させることで密着結合が形成され、バリア機能を発揮する。