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再生医療研究で注目の幹細胞エクソソームを介して線維芽細胞老化を抑制する成分(グリコーゲン/テトラペプチド-5)を発見

研究開発

再生医療研究で注目の幹細胞エクソソームを介して線維芽細胞老化を抑制する成分(グリコーゲン/テトラペプチド-5)を発見

2021年6月25日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、「脂肪組織由来間葉系幹細胞(以下脂肪幹細胞)」を用いた再生医療研究を進めており、その知見を様々な製品分野に応用しています。脂肪幹細胞は様々な疾患治療に応用されており、その有効性は主に脂肪幹細胞が分泌するエクソソームによることが明らかとなりつつあります。ロート製薬はエクソソームの生理機能に着目したアンチエイジング研究を推進しており、これまでに幹細胞から線維芽細胞へのエクソソームの伝達を促進する組み合わせ成分(グリコーゲンとテトラペプチド-5)を発見しています。今回、同組み合わせ成分のエイジングケア作用について詳細な検討を進めた結果、幹細胞エクソソームを介して線維芽細胞の老化を抑制し、コラーゲン・エラスチンなどの真皮成分の合成を促進することを発見しました。

研究成果のポイント

  • 自社独自に発見した、幹細胞から線維芽細胞へのエクソソーム伝達促進可能な組み合わせ成分(グリコーゲン/テトラペプチド-5)のエイジングケア作用を評価
  • 当該組み合わせ成分に、幹細胞エクソソームを介した線維芽細胞の細胞老化抑制作用を発見
  • 更に、線維芽細胞の老化に伴うコラーゲン・エラスチン合成低下を回復させる作用を発見

研究の背景

図1.エクソソームとは

近年、再生医療分野において脂肪幹細胞は様々な疾患治療に応用されており、その有効性は主に脂肪幹細胞が細胞外に分泌するエクソソームが担っていることが明らかとなりつつあります。
エクソソームとは、細胞から分泌されるタンパク質やRNAを内包した細胞外小胞(カプセル)であり、細胞間における情報伝達に重要な役割を担います(図1)。
これまでに、脂肪幹細胞のエクソソームに着目し、その分泌量を増加させるスキンケア素材としてグリコーゲンとテトラペプチド-5の組み合わせ(以下、組み合わせ成分)を発見しました。さらに、線維芽細胞は幹細胞のエクソソームを受領するものの、その量は線維芽細胞の老化に伴い減少すること、また組み合わせ成分がその回復を可能にすることを明らかとしました。
しかし、幹細胞に由来するエクソソームのエイジングケアに対する具体的な作用はわかっておりません。そこで本研究では、組み合わせ成分添加により得られた脂肪幹細胞由来エクソソームの線維芽細胞の老化症状に対する作用を検証しました。

結果

グリコーゲンとテトラペプチド-5添加により得られた幹細胞エクソソームは線維芽細胞の細胞老化を改善する

まず組み合わせ成分の幹細胞由来エクソソームを介した線維芽細胞の細胞老化改善作用について検証しました。細胞老化を研究する評価モデルとしては、長期継代培養によって細胞老化を誘導した老化線維芽細胞株を用いました。組み合わせ成分添加条件で得られた幹細胞エクソソームを老化線維芽細胞株へ添加し、老化度指標としてβガラクトシダーゼ活性を評価しました(図2)。その結果、幹細胞エクソソームにより、βガラクトシダーゼ活性が49.7%に減少し、細胞老化が改善することを確認しました(図3)。したがって、組み合わせ成分は、幹細胞エクソソームを介して、線維芽細胞の細胞老化を改善することが明らかとなりました。

図2.幹細胞エクソソームの老化線維芽細胞に対する機能性評価の方法

図3.グリコーゲンとテトラペプチド-5処理された幹細胞由来エクソソームは線維芽細胞の細胞老化を改善する

試験方法: 評価用のエクソソームは、脂肪幹細胞にグリコーゲンとテトラペプチド-5を添加し、48時間培養後の培養上清から精製することで回収しました。老化線維芽細胞は、新生児由来正常ヒト線維芽細胞を継代培養することで細胞老化を誘導しました。この老化線維芽細胞に対して、幹細胞由来エクソソームを添加して72時間培養の後、β-ガラクトシダーゼ活性を酵素反応法で染色、可視化しました。
**p<0.01 (vs 成分添加無し) student's t test n=3(ロート研究所実施)

グリコーゲンとテトラペプチド-5添加により得られた幹細胞エクソソームは老化線維芽細胞のI型コラーゲンとエラスチンの産生を改善する

線維芽細胞は細胞老化することでコラーゲンやエラスチンの産生能力が低下し、老化によるしわやハリの減少と関係があると考えられています。今回、組み合わせ成分添加により得られた幹細胞エクソソームは線維芽細胞の細胞老化を改善したことから、コラーゲン及びエラスチンのたんぱく質合成量に対するエクソソームの影響について評価しました。
コラーゲン、エラスチン共に、正常な線維芽細胞と比較し、老化誘導細胞では遺伝子発現が大幅に低下していることが確認され、老化現象が再現されていることが確認されました。この老化細胞に、組み合わせ成分添加により得られた幹細胞エクソソームを添加したところ、コラーゲンとエラスチンのたんぱく質合成量が有意に上昇し、老化による遺伝子発現低下が回復したことが確認されました。

図4.グリコーゲンとテトラペプチド-5処理された幹細胞由来エクソソームは老化線維芽細胞のコラーゲン・エラスチン遺伝子発現を増強する

試験方法: 正常な線維芽細胞並びに老化線維芽細胞を幹細胞エクソソーム存在/非存在下で48時間培養し、培養上清中に含まれるI型プロコラーゲンC末端プロペプチド(左図)はELISA法を、エラスチン(右図)については5, 10, 15, 20 - テトラフェニル - 21, 23 - ポルフィリン硫酸塩を用いた比色法を用いて定量しました。
**p<0.01 (vs 老化した線維芽細胞、成分添加無し) student's t test n=3(左図)、**p<0.01 (vs 老化した線維芽細胞、成分添加無し) student's t test n=4(右図)(ロート研究所実施)

今後の展望

本研究により、組み合わせ成分によって脂肪幹細胞から分泌されたエクソソームは、線維芽細胞の細胞老化を改善し、老化によるI型コラーゲンとエラスチン産生低下を改善することが明らかとなりました。この結果は、組み合わせ成分が脂肪幹細胞に働きかけ、エクソソームを介した線維芽細胞の活性化を誘導することで、しわやたるみ、ハリといったエイジングケアに有用である可能性が示唆されました。今後もエクソソームの機能解析およびその活用に向けた技術開発を進め、再生医療とヘルスケア技術の発展を通じ、人々のWell-beingの実現に努めてまいります。

過去の関連リリースはこちら

補足:再生医療研究におけるエクソソームの役割とは

  1. 幹細胞移植による再生医療研究とエクソソーム

    再生医療とは、臓器の欠損や機能不全に対し、幹細胞を用いて機能回復をはかる医療です。特に、間葉系幹細胞を直接体内に投与する細胞治療はすでに臨床治療が開始されており、ロート製薬では消化器系疾患である肝硬変を対象とした臨床研究を推進しております。近年の研究成果によると、細胞治療療法における作用の大部分を間葉系幹細胞が細胞外に分泌するエクソソームと呼ばれるカプセルが担っていることが明らかとなりつつあります。これまでに、ロート製薬はエクソソームを代表とした再生医療研究で得られた知見を様々なヘルスケア製品開発に応用すべく、研究開発を進めてまいりました。

  2. エクソソームとは

    エクソソームとは、細胞から分泌されるタンパク質やRNAを内包した直径約50–200nmの細胞外小胞(カプセル)であり、細胞間における情報伝達に重要な役割を担います。エクソソームはあらゆる細胞から放出されますが、その性質はエクソソームを分泌する細胞種によって異なります。エクソソームは間葉系幹細胞を用いた細胞治療効果の中心的な役割を果たす上に、細胞外へ分泌されたエクソソームは精製・保存が可能であることから、エクソソームの活用による、迅速かつ効果的な再生医療の実現が期待されています。

図5.エクソソームの模式図