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かゆみ伝達機構に関わる脱顆粒およびTRPA1阻害作用を示す物質の組み合わせを確認

―かゆみ研究における最新成果― かゆみ伝達機構に関わる脱顆粒およびTRPA1阻害作用を示す物質の組み合わせを確認

2022年3月10日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、Connect for Well-beingな社会の実現に向けて、皮膚のかゆみに関する研究を進めています。研究拠点ロートリサーチビレッジ京都にて研究を進め、今回はヒスタミンが関与するかゆみの伝達における脱顆粒に、ヒスタミンの関与しない経路として温度感受性TRP受容体の一種であるTRPA1を介した経路に注目しました。その結果、脱顆粒抑制を増強する成分の組み合わせとして酸化亜鉛とプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルを、およびTRPA1活性抑制を増強する成分の組み合わせとしてカンフルと抗ヒスタミン剤を見出しました。
今後、新しく発見されたかゆみの伝達経路や成分の作用の探索を通じ、新たな経路阻害を探索していきます。

研究成果のポイント

  • <酸化亜鉛>ステロイドの一種であるプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル(PVA)による酸化亜鉛の脱顆粒抑制作用の増強を確認、かゆみ伝達経路の一つを阻害
  • <カンフル>抗ヒスタミン剤によりカンフルのTRPA1活性抑制作用の増強を確認、ヒスタミン非依存性のかゆみ伝達経路の一つを阻害
  • これまで機能が明らかとなっていなかった成分のかゆみ伝達経路阻害作用の可能性を模索し、かゆみに悩む多くのお客様に届けられる製品への応用を目指す

研究の背景

かゆみ悩み

かゆみは、私たちが心地よい生活を送る上で非常に大きな悩み症状の一つであることが知られています。ロート製薬の調査によると、直近1年で「かゆみ」を感じた人は20~69歳男女の73.5%にものぼり、その部位や原因は多様化している様子が見られました。原因は、通年で乾燥が最も多かったものの、その他汗や花粉、ストレス、という回答も見られ、かゆみに対して新たなメカニズム研究や、作用のある成分の探索が期待されます。

かゆみ研究

かゆみには、アトピー性皮膚炎において現れるものを始めとして従来の抗ヒスタミン剤やステロイド系の成分では対処しきれないものがあります。かゆみの伝達経路は複数存在しており、これまで研究されてきたヒスタミンに限らず、それ以外のかゆみの伝達物質が関与する事が示唆されています。このヒスタミン非依存性のかゆみは近年注目されており、従来の鎮痒剤では止まらないかゆみのメカニズムの一つとして、また慢性掻痒や掻破行動の惹起の可能性があるメカニズムの一つとして考えられています。
そこで私たちは、今回、ヒスタミン依存性/非依存性の両方のかゆみメカニズムに着目し、それぞれの経路として脱顆粒および温感性受容体であるTRPA1を介した伝達経路に着目しました。これまでに、「酸化亜鉛」は脱顆粒を抑制することでのかゆみへの作用が報告されており、今回はその作用を強める成分としてプレドニゾロン誘導体を組み合わせた検討を行いました。また、「カンフル」が、TRPA1のかゆみに対する作用はこれまで報告されており、今回抗ヒスタミン剤を組み合わせた検討を行うこととしました。

図1:ヒスタミン依存性/ヒスタミン非依存性のかゆみの伝達経路

※ロート製薬の調査 2021年9~10月、n=10000、20~60代の男女を対象にした調査による

結果

PVAを併用することで酸化亜鉛の脱顆粒抑制作用が増強した

今回、脱顆粒に酸化亜鉛及びPVAが与える影響を試験した結果、酸化亜鉛、PVAそれぞれ単体では脱顆粒の抑制は検出されなかった濃度において、酸化亜鉛及びPVAを同時に添加した場合、優位な脱顆粒の抑制を検出しました(図2)。したがって、PVAが酸化亜鉛の脱顆粒抑制を増強する作用があることが示され、かゆみの伝達経路の一つを阻害すると考えられます。

図2:酸化亜鉛とPVAの組み合わせによる脱顆粒抑制の増強作用

<試験方法>
骨髄由来細胞からマスト細胞を分化させて抗体を添加して培養後、惹起剤であるDNP-BSAを添加して脱顆粒を起こした。脱顆粒抑制物質候補であるPVA及びZnOはDNP-BSAの前に添加した。DNP-BSA添加後の上清に含まれる脱顆粒の指標となるβ-Hexoaminidaseの酵素活性を評価した。(ロート製薬研究所実施、n=3)

抗ヒスタミン剤を併用することでカンフルのTRPA1の活性抑制作用が増強した

今回、TRPA1の既知のアンタゴニストであるカンフルと抗ヒスタミン薬を併用して実験を行ったところ、カンフル(C)単体では部分的なTRPA1活性の抑制が見られる濃度に、抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミン塩酸塩(D)またはクロルフェニラミンマレイン酸塩(CM)を加えると、濃度依存的にTRPA1活性の抑制作用が増強されることが示されました(図3)。したがって、抗ヒスタミン剤によりカンフルのTRPA1活性抑制作用の増強を確認、ヒスタミン非依存性のかゆみ伝達経路の一つを阻害すると考えられます。

図3:カンフル(C)とジフェンヒドラミン塩酸塩(D)またはクロルフェニラミンマレイン酸塩(CM)の組み合わせによるTRPA1抑制作用の増強

<試験方法>
T-Rex-293細胞を用いて、hTRPA1活性について蛍光剤Fluo-8を指標として評価した。惹起剤であるシンナムアルデヒド(CA)と、抑制物質候補であるカンフルおよび抗ヒスタミン剤(D/CM)を同時に添加したときのFluo-8の蛍光を経時的に測定し、hTRPA1活性を算出した。(静岡県立大学にて実施、n=3)

今後の展望

従来解決できなかったかゆみ等に関する新たなかゆみの伝達経路の知見を元に、実際にその経路へ関与する成分の探索やメカニズムの解明を進めていきます。この研究が進むことで、これまで明らかになってこなかった成分やメカニズムの新たな知見を得られる可能性があります。かゆみが生じるとQOLが低下することは自明であり、治療、改善の方法を検討するにあたり、メカニズムの解明は非常に大きな役割を果たすと考えられます。今まで未解決な部分に対する新知見を提供していくことで、悩みを持ち続けていたお客様にまで新たな価値が届くことを期待しています。

用語説明

※1 ヒスタミン依存性/ヒスタミン非依存性のかゆみメカニズム:ヒスタミン依存性の経路は抗原をIgE抗体が認識し、それらがマスト細胞に結合する事で進行します。活性化されたマスト細胞は脱顆粒を生じ、ヒスタミンを中心としたメディエータを放出し、神経細胞中の各受容体に結合する事でかゆみを伝達します。一方、ヒスタミン非依存性の経路ではヒスタミン以外のメディエータが神経細胞に結合する事でかゆみが伝達されますが、その中にはTRPA1を介した経路が存在する事が報告されています。

※2 温度感受性TRP受容体:神経細胞を始めとした細胞の細胞膜に発現するイオンチャネル型受容体の一つとして知られています。温感や冷感などの温度刺激に反応し、痛みやかゆみの伝達にも関与する種類が存在することが知られています。

※3 脱顆粒:マスト細胞がIgE抗体を介して抗原を認識する事で、かゆみを伝達するメディエータを放出します。その際、マスト細胞自身が破裂する事から脱顆粒と呼ばれます。

※4 酸化亜鉛:収れん作用が認められている物質です。

※5 カンフル:清涼化作用が認められている物質です。

※6 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル:ステロイド系薬剤の一つであり、抗炎症作用、鎮痒作用が認められています。

※7 抗ヒスタミン剤:かゆみのメディエータであるヒスタミンが受容体に結合することを阻害する物質であり、鎮痒効果が認められています。ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど様々な成分の総称となります。

※8 慢性掻痒:かゆみが長期的に継続している状態を指します。

※9 掻破行動:かゆみなどが原因となり、患部をかきむしる行動を指します。