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「目薬」開発をAIがお手伝い。処方設計時の防腐効果をAIが予測、適合処方の創造も可能に

研究開発

「目薬」開発をAIがお手伝い 処方設計時の防腐効果をAIが予測、適合処方の創造も可能に

2022年9月29日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、社会のwell beingへ貢献するためDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。今回、Quantum Analytics合同会社(本社:京都市左京区、代表社員 古屋俊和)と共同にて、点眼剤およびスキンケア剤の処方情報等により、製剤の防腐効果を予測するAIアプリケーションを開発いたしました。本アプリケーションは最新のデータ生成技術を使用することで、指定した防腐効果を有する処方を新たに創造することも可能です。本技術により、多様化するお客様のニーズと品質に対応したスピード開発が期待されます。引き続きロート製薬は、DXの活用により創造的かつ効率的にお客様へ健康と美をお届けしていきます。

研究成果のポイント

  • これまでに検討を行った製剤の処方情報と防腐力試験結果を活用し、予測モデルを作成
  • データ生成技術により指定の防腐効果を有する処方を創造することが可能
  • AI技術の活用により、効率的でスピーディーな製剤開発に期待

研究の背景

当社が製造するすべての製剤は、開封後も安心してご使用いただけるよう、お客様の使用シーンや製剤の特性に合わせた防腐効果を確認し、販売されています。
防腐効果を測定する試験(防腐力試験)は、実際に微生物(細菌や真菌)を使用した試験で、その操作や取り扱いには一定の技術を伴います。また、生きた微生物を使用することで、試験結果の判定完了までは約1か月間を要し、効率的な試験であるとは言えませんでした。また、この試験は医薬品等の開発における品質設計を行う上で重要な試験の一つではありますが、属人的かつ非効率な面もあり、お客様のご要望に応えるためのスピーディーかつ自由な処方設計の課題となっていました。
そこで、今回、開発担当者が創造する多くの処方案から、希望する防腐効果を有した適合処方案を絞り込むことができるように、精度の高いアルゴリズムの探索と予測モデルの構築を目指しました。さらに、最新のデータ生成技術を利用し、適合処方案の創造までチャレンジしました。

結果

過去に検討を行った製剤の処方情報および防腐力試験結果を学習データとしモデルを構築しました。防腐力の結果は使用した微生物(細菌および真菌)ごとに設定し、処方情報と防腐力がセットになったデータを作成しました。アプリ内にて構築したモデルの正答率を検証したところ、点眼剤において90%以上の精度、スキンケア剤において細菌89%(平均)、真菌73.4%(平均)となりました。これら構築したモデルを使用し、点眼剤の検討製剤で本アプリケーションに実際に防腐力を予測させた後、防腐力試験を実施したところ、菌種により80%~100%の割合で結果が一致することが分かりました。
さらに、本アプリケーションは最新のデータ生成技術を使用することで、指定する防腐効果を有した製剤を創造することができます。本アプリケーションに創造させた適合処方案を実際に調製し、防腐力試験を実施したところ指定した防腐力を有していることが分かりました。

図1:製剤開発におけるAIの効果

今後の展望

本AIアプリケーションを活用することで、誰でも自由にいつでもどこでも品質管理上重要な要素の一つである防腐力試験をクリアする可能性の高い製剤を設計することができます。このことで、よりスピーディーな開発が可能となり、これまで以上に多様化するお客様のご要望に対し、素早く効果的にお答えすることができることが期待されます。

開発者より

Quantum Analytics合同会社 代表社員 古屋俊和

事業としては、仮想データ生成、XR×AIなど、最新のAIを事業化する研究開発やその支援を行っています。
今回の開発テーマである処方設計の研究開発の場合、研究施設へ出向き実験する必要がありました。本研究では、効率的な実験条件をAIで提示することで研究施設で実験する回数を減らし、研究者が在宅勤務でも処方設計ができる仕組みを作りたいと想い開発しました。

ロート製薬株式会社 品質設計センター 久保大空

現在、生産性向上を目的としたデジタルトランスフォーメーションが話題となり、各社企業は積極的に取り組んでいます。そんな中弊社R&D部門でも同様に、効率的かつ効果的なデジタル活用を目指してきました。R&Dでは繰り返しの実験操作は比較的少なく、データは全て実験を伴うため整ったデータセットの取得・作成に労力を要しました。過去のデータなどは紙媒体で保管・紐づけされており、また属人的に管理されているなど、多くの課題がありました。本研究は、本来の防腐力予測だけでなく、同時に開発時のデータ整流化や、標準的な知見の蓄積に寄与することが期待されます。
これからも、社会のWell-beingに貢献すべく、ワクワク働きながら創造により社会課題へ取り組むことをお約束いたします。