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日やけ止め製剤のサンゴ成育への影響評価法を新たに確立

研究開発

~環境移送ベンチャー イノカとロート製薬の共同研究成果~ 日やけ止め製剤のサンゴ成育への影響評価法を新たに確立

2024年3月5日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)と株式会社イノカ(本社:東京都文京区、代表者:高倉葉太、以下イノカ社)は、日やけ止め製剤がサンゴの成育に与える影響評価方法について検討を行いました。本調査ではイノカ社独自の環境移送技術®(※1)を活用し、当社の「スキンアクア ネクスタ シールドセラムUVミルク」が、海洋生物の一種であるサンゴ2属3種を活用した結果でも、成育に影響を与える可能性が低いことを確認しました。

写真1:サンゴ育成実験中の様子

※1:環境移送技術®について

海洋環境を自然に近いかたちで水槽内に再現する独自の技術コンセプトです。自社開発したAI/IoTデバイスを用いて、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含む生物同士の関係性など、多岐に渡るパラメーターを制御することで、任意の水環境をモデル化して水槽内に再現します。天然海水ではなく、人工的に生成した海水を使用することにより、実験や解析に適した「標準的」かつ「安定・均一」な環境を、立地を選ばずに構築することが可能です。
環境移送技術はイノカの商標登録です。

研究成果のポイント

  • 環境に配慮した設計の日やけ止め製剤が、海洋生物の一種であるサンゴ成育への影響を与えにくいことが確認された。
  • コモンサンゴ属・ミドリイシ属の成育について、製剤の影響評価方法を新たに確立することができた。
  • 国内初(※イノカ調べ)となる、人工海水を用いた完全閉鎖系での実験を実施。天然海水を汲み上げる実験設備に比べ、再現性・安定性が高いのが特徴。
  • 健康状態の測定項目として、サンゴの色・ポリプの開口状態・被覆状態、およびクロロフィル蛍光量を観察した。

研究の背景

近年、日やけ止め製剤に配合されている特定の成分によるサンゴの死滅や海洋生物への影響が問題視されています。実際、一部の海外地域では有害指定化学物質を使用した日やけ止めの販売や使用、持ち込みが禁止されており、生物多様性保全の意識が高まりつつあります。このような状況下、ロート製薬では、環境に配慮した製剤設計で日やけ止めを開発する等の企業努力を続けているものの、実際の化粧品製剤がどの程度サンゴに影響を与え得るのかに関する科学的な評価事例が少ないこと、またグローバルスタンダードとなるような評価系が構築されていないことを課題ととらえ、イノカ社と取組を進めてきました。

今回実験に使用し、2022年より当社が発売を開始した「スキンアクアネクスタ」シリーズは、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(紫外線吸収剤)を配合せず、独自の考え方で環境配慮設計をした日やけ止め製品です。そこで今回の研究では、イノカ社独自の環境移送技術®を活用した水槽内で、「スキンアクア ネクスタ シールドセラムUVミルク」がサンゴ成育へ与える影響評価を行いました。

研究方法

評価対象としたサンゴは2種類のコモンサンゴ属および1種のミドリイシ属を用い、評価項目はCoralHealthChartによる健康状態観測、光合成推定値であるクロロフィル蛍光量の分析としました。また、評価濃度の設定にあたっては、一般的に人が1日で使用する日やけ止めは1.2g、使用した日やけ止めの少なくとも25%が水中での活動中に溶出することが指摘されています。そこで本研究では一度の海水浴で接触する海水の体積の総合が1m³(1,000L)であると仮定し、その海水に溶出する日やけ止めの最大濃度100µg/Lを上限とし、評価を実施しました。

結果、考察

結果として、「スキンアクア ネクスタ シールドセラムUVミルク」が、最大濃度である100µg/L以下の海水中濃度でも、コモンサンゴ属およびミドリイシ種の成育に影響しないことが確認されました。また健康状態の観察では、飼育14日後でも全てのサンゴ種でサンゴの色やポリプの開口状態に影響がありませんでした(写真2)。これらは、健康状態 総合スコアとして示しております(図1)。
また光合成推定値であるクロロフィル蛍光量において、100µg/Lの濃度で14日後に影響しないことを確認しました(図2)。

写真2:14日間の影響評価実験後のサンゴの様子

図1:健康状態 総合スコア(色、ポリプの開口状態、被覆状態)の変化

図2:光合成推定値(クロロフィル蛍光量)の変化

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、日やけ止めを実使用した際の、コモンサンゴ属2種ならびにミドリイシ属1種への影響を評価できる方法が確立できました。今後、日やけ止めに限らず化粧品製剤の影響評価に活用できるとともに、より環境に配慮した製品の開発に繋げていくことが期待できます。