レチノールの有効性と安全性の両立を目指した浸透をコントロールする技術を発見

研究開発

レチノールの有効性と安全性の両立を目指した浸透をコントロールする技術を発見 ―レチノールのA反応を科学する―

2024年12月19日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、ロートグループ 総合経営ビジョン 2030 である「Connect for Well being」の実現に向け、お客様が安心して使用し続けていただけるようにレチノール※1の研究を進めています。今回、レチノールによって生じるレチノイド反応(以下、A反応)※2に着目し、有効性と安全性の両立をめざして研究を進めた結果、レチノールの浸透をコントロールする技術を発見いたしました。

研究成果のポイント

  • レチノールの浸透をコントロールする技術を実現
  • レチノールの有効性を保ちながら強いA反応が起こりにくく安全性を高めた成分の組み合わせを発見
  • 効果を発揮しながら安全性が高く安心して使用できるレチノールを配合した製品への応用に期待

研究の背景

図1:浸透をコントロールするイメージ図

近年、スキンケア市場では「効果」を重視するトレンドが強まり、いわゆる成分コスメが注目されています。その中でも、効果が高くエイジングケアや肌質改善が期待される「レチノール」は注目度が高く、国内外でレチノールやその誘導体※3を配合したスキンケア製品の市場が拡大しています。一方で、レチノールには課題があり、有効性が高い反面、その反応性の高さから肌の赤みや乾燥、皮むけのような「A反応」と呼ばれる反応が起こりやすく、使用時に注意が必要です。配合量を減らすことでA反応を起こりにくくし、安全性を高める方法もありますが、有効性が低下する可能性があり、期待されている「効果」も得られにくくなる可能性があります。つまり、有効性と安全性の両立は、レチノール製品の市場を拡充するための重要なテーマの一つといえます。
昨今、リポソーム※4のような技術や容器の工夫でレチノールの安定性を向上させる研究が広く行われています。しかし、当社はこれまでのレチノール製品の知見からヒントを得て、従来とは異なるアプローチとして、浸透速度をコントロールすることで有効性を保ちながら皮膚への刺激を低減できるのではと考え、研究を進めることとしました。今回の研究では、特定のIOB※5領域の成分を配合することでレチノールの浸透速度を緩和し、有効性と安全性を両立できることを三次元人工培養皮膚による浸透試験と人を用いた臨床試験にて確認を行いました。

結果

1)特定のIOB領域の成分が三次元人工培養皮膚におけるレチノールの浸透速度を緩和することを確認

三次元人工培養皮膚モデルを用いて、成分のIOBとレチノールの浸透速度についての評価を行いました。シリコーンの浸透速度をコントロールとした場合、ステロールエステルや植物油などレチノールと極性の近い油はレチノールの浸透を緩和し、非極性油や両親媒性油などレチノールと極性の遠い油はレチノールの浸透を促進することが分かりました。以上より、油の極性、つまりIOBによってレチノールの浸透速度をコントロールできることが示されました(図2)。
この結果をもとに、浸透をコントロールする技術を搭載し、レチノールとIOB値が近い油を複数選択し配合した製剤で同様の評価を行ったところ、レチノールの浸透速度が緩和することが確認できました(図3)。

図2:成分のIOBとレチノール浸透速度の評価結果

図3:製剤中のレチノール浸透速度の評価結果

<試験方法>
三次元人工培養皮膚モデルにレチノールと各IOBの油剤を添加し、4時間後に回収した。表皮細胞のレチノールを抽出し、HPLCにて定量した。さらに、製剤でも同様に試験を行い、表皮細胞中のレチノールを定量した。
(n=3、Dunnett **:P<0.01、ロート製薬研究所実施)

2)ヒト試験においてレチノールの効果と安全性を実現

浸透をコントロールする技術を搭載した試験品のクリームで8週間連用試験を実施しました。シワのレプリカ評価の結果、塗布前後の比較で目回りのシワへの効果が認められました(図4)。また、皮膚科医による医師所見の結果、試験期間中に所見スコア2(軽度)以上の症状はなく、試験品による重篤な皮膚トラブルはありませんでした(図5)。以上の結果から、効果と安全性を両立していることが示唆されました。

図4:シワのレプリカ評価 各項目の結果

図5:医師による所見観察項目・判定基準

<試験方法>
30~59歳の女性23名に自宅で試験品を8週間使用後、外部試験機関で各項目の測定を行った。
(n=23、Wilcoxon signed rank test **:P<0.01、ロート製薬研究所実施)

今後の展望

本研究成果により、レチノールの浸透速度をコントロールすることで有効性と安全性を両立できる可能性が示唆されました。この発見は、お客様に効果を感じながら安心してご使用いただけるレチノール配合製剤の開発へつながることが期待されます。今後も、レチノールに限らずさまざまな成分の効果と安全性を高めよりよい製品を開発できるよう、研究を続けてまいります。

用語説明

※1:レチノール
脂溶性のビタミンAの一種。生体内では皮膚や粘膜、目の維持など生理作用を発揮する。皮膚に塗布すると、コラーゲン産生やターンオーバー促進などの機能があることが報告されている。

※2:レチノイド反応(A反応)
レチノール類の外用により、急激に新陳代謝が促進されることで起こる皮膚の赤み、乾燥、皮むけ等の症状のこと。

※3:レチノール誘導体
レチノールの一部が修飾されており、レチノールとは科学的構造が部分的に異なる。パルミチン酸レチノールや酢酸レチノールなどが知られている。

※4:リポソーム
細胞膜の構成成分であるリン脂質の二重膜が何重にも重なった構造をもつ微小なカプセル。カプセル内に薬剤を封入して医薬品のドラッグデリバリーに利用されるなど、有効成分を封入して成分の安定性や成分の皮膚への浸透性を向上させるために使用する。

※5:IOB
Inorganic-Organic Balanceの略。成分の無機性値と有機性値の比から求めた値で成分の性質を表す値の一種。