犬皮膚細胞における独自セラミドの作用を解明

研究開発

アライアンス

犬皮膚細胞における独自セラミドの作用を解明 -バリア機能改善につながる新知見-

2025年12月17日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:瀬木英俊)は、ロートグループ 総合経営ビジョン 2030「Connect for Well-being」の実現に向け、動物皮膚領域においても基礎研究を推進しています。この度、麻布大学 獣医学部 薬理学研究室(福山朋季准教授)と共同で犬の皮膚に特化した研究を進めた結果、当社独自のセラミド「ナノ化発酵セラミドプラス」がセラミド合成関連遺伝子の発現を高め、抗炎症作用およびバリア機能改善を示唆する知見が得られました。さらに、グリチルリチン酸ジカリウムとの併用により、抗炎症効果が一層高まる傾向も確認されました。

研究成果のポイント

  • 犬角化細胞においても独自セラミド「ナノ化発酵セラミドプラス」の作用を解明
  • 犬の皮膚に対するセラミド合成経路の遺伝子発現上昇、抗炎症、バリア機能改善のアプローチを示唆
  • 獣医療におけるスキンケア介入のエビデンス創出、臨床応用への期待

研究の背景

図1:犬の皮膚における「乾燥→掻破→バリア低下→炎症→かゆみ」の負のスパイラルの概念図

これまで動物皮膚分野に関する科学的知見はまだ充分でなく、人の知見をそのまま動物に適用することは、被毛を含め皮膚構造や機能に違いがあり、必ずしも適切ではない可能性があり、動物独自の研究が求められています。
一方で人のアトピー性皮膚炎治療ガイドラインでは、スキンケアが治療および炎症の再燃予防の基本とされており、保湿による皮膚バリア機能の改善が炎症の再燃や増悪の抑制に寄与することが示されています。
犬においても、図1のようなかゆみの負のスパイラルが形成されることが知られています。この悪循環は、皮膚の炎症の慢性化や再発の一因となるため、皮膚バリア機能を維持するスキンケアによる早期介入は皮膚の健康維持の一助となると考えられます。
本研究では、ヒトにおいて蓄積された知見を参考にしながら、犬の皮膚の特性に着目し、犬角化細胞を用いて独自セラミドである「ナノ化発酵セラミドプラス」の作用を多面的に検証することとしました。

結果

結果1:犬角化細胞(CPEK)において、セラミド合成経路遺伝子の発現上昇を確認

独自セラミドである「ナノ化発酵セラミドプラス」の犬角化細胞(以下、CPEK)に対する作用をin vitroにて多角的に評価することを目的として実験を行ったところ、ナノ化発酵セラミドプラスは複数のセラミド合成関連酵素の遺伝子発現を増やす効果があることを見出しました。参考までに、ヒトの皮膚では、図2に示したように主に2つの経路で多くの酵素が働き、セラミドがつくられています。犬の皮膚においてもセラミド混合物はこれらの酵素のうち、A(SPTLC1)とB-1(SMPD1)とB-2(GBA2, GALC)に関して遺伝子発現を増やしていることから、複数の経路を活性化しており、犬においても皮膚に存在する多種のセラミド産生に有益であると考えられます。

図2:犬角化細胞におけるセラミド合成関連遺伝子発現量の変化およびヒトの皮膚でのセラミド合成経路と関連酵素

試験方法:CPEKにナノ化発酵セラミドプラスを添加し、48時間後のセラミド関連遺伝子発現変化をqPCR法により解析した。図中のCCはナノ化発酵セラミドプラス、Con はCC非添加群を指す。(麻布大学で実施)

結果2:CPEKにおいて、バリア機能の改善を示唆

CPEKにおいて、細胞にダメージを加えた後にナノ化発酵セラミドプラスで処置したところ、経表皮水分蒸散量(以下、TEWL)の有意な低下および経上皮電気抵抗(以下、TEER)の有意な上昇が認められ、顕微鏡写真においてもCPEKの回復を促している事が確認できました。このことからナノ化発酵セラミドプラスは犬でも皮膚バリアの健全化に寄与する可能性が示唆されました(図3)。

図3:CPEKにおける経表皮水分蒸散量、経上皮電気抵抗の変化および傷つけた細胞の顕微鏡写真の変化

試験方法:CPEKにおける細胞傷害からの回復を確認するため、マイクロピペットで傷をつけたCPEKを用いて、TEWLおよびTEERを指標とし、その後の回復状態をコントロール群(Con はCC非添加群を指す)およびナノ化発酵セラミドプラス添加群(CC)で比較した。(麻布大学で実施)

結果3:グリチルリチン酸ジカリウム(DPG)と併用することで抗炎症効果に関して増強作用を確認

ナノ化発酵セラミドプラスの免疫細胞に対する抗炎症作用を調べるため、犬マクロファージ細胞株を用いて、炎症性サイトカイン産生(IL-6およびIL-8)を確認したところ、陰性コントロール群と比較してナノ化発酵セラミドプラスないしDPG添加群においてIL-6およびIL-8産生の低下が認められ、両者を混合することでその抑制効果はさらに増強されました(図4)。

図4:犬マクロファージ細胞における炎症性サイトカイン(IL-6, IL-8)産生抑制

試験方法:犬マクロファージ細胞株をTNFαおよびIFNγで刺激した後に、CCを添加したときの炎症性サイトカイン産生(IL-6およびIL-8)をELISA法により測定した。(Intact,:無処置)(麻布大学で実施)

今後の展望

本研究により、これまで人で確認できていた当社独自セラミドであるナノ化発酵セラミドプラスによるセラミド経路の遺伝子発現上昇および抗炎症作用が、犬の皮膚細胞においても確認されました。ナノ化発酵セラミドプラスは、犬においても、皮膚バリア機能の向上や炎症抑制において重要な役割を担うことが示唆されました。
今後は、犬における臨床応用の可能性をさらに探るとともに、犬種差や年齢差など多様な要因にも配慮し研究を深めてまいります。スキンケアの研究を通じて、科学的根拠に基づき動物の皮膚の健康に貢献し、人と動物の豊かな暮らしを支えていきたいと考えています。

用語説明

※1:当社独自セラミド「ナノ化発酵セラミドプラス(CC)」
大豆や小麦などを原料とする醤油(白醤油)の醸造発酵粕由来である植物由来の天然セラミド(ジヒドロキシリグノセロイルフィトスフィンゴシンおよびセラミド6II)を皮膚への浸透性を考慮し、高圧ナノ化処理した原料

※2:犬角化細胞(CPEK)
犬皮膚の表皮を構成する主要な細胞で、バリア形成や外的刺激からの防御に重要な役割を担う細胞

※3:経表皮水分蒸散量(TEWL)
皮膚バリア機能の指標の一つ。皮膚から水分が蒸発する量を指し、値が高いほど、皮膚のバリア機能が低下していることを意味する

※4:経上皮電気抵抗(TEER)
細胞間の密着性や皮膚バリアの一体性を評価する指標。細胞層を挟んで電流を流した際の電気抵抗値を測定し、値が高いほど、バリア機能が良好である状態を示す

※5:犬マクロファージ細胞株
犬由来マクロファージの株化細胞。マクロファージは体内で異物の処理や炎症反応の制御を担う