Open

アイケア分野

アイケア分野

1909年に初代目薬「ロート目薬」を発売して以来、私たちは100年以上にわたって時代とともに変化するお客様の目の悩みに応え続けてきました。
はじめは当時流行していた眼病を治療するために開発された目薬でしたが、その後人々のライフスタイルの変容に対応して進化し続け、これまで国内のアイケアカテゴリーを牽引してきました。人々のあらゆる目の悩みにこたえるため、目薬だけでなく、洗眼薬、コンタクトレンズやそのケア剤、さらにサプリメントも開発してきました。

現在は、これまで開発してきたこれらのOTC医薬品に加え、医療用医薬品の開発も進めています。さらに海外にも目を向け、世界中の人々の目を健康にするための取り組みを進めています。

これからも、日々のケアから病気の治療まで、アイケアのトータルカンパニーとして、健康・未病・病気のさまざまなステージで時代とともに変化するお客様のニーズに合った商品を提案していきます。

研究事例紹介

デジタル社会における目の疲れ

ブルーライトが角膜幹細胞に及ぼす影響

角膜幹細胞

角膜幹細胞

ブルーライトの照射による角膜幹細胞の細胞生存率(a)および炎症性サイトカイン(IL-1b)の遺伝子発現量(b)の変化

ブルーライトの照射による角膜幹細胞の細胞生存率(a)および炎症性サイトカイン(IL-1b)の遺伝子発現量(b)の変化

硝酸亜鉛水和物がブルーライト照射による変化に与える影響

硝酸亜鉛水和物がブルーライト照射による変化に与える影響

デジタルデバイスの急速な普及により、現代人の日常生活におけるブルーライトの暴露量は増えています。ブルーライトは、眼や身体に大きな負担をかけるといわれており、眼においては網膜や角膜に対して様々な影響を与えることが示唆されています。
しかし、日々新しい角膜上皮細胞を産み出し、角膜のターンオーバーや恒常性維持に重要な役割を果たす角膜幹細胞への影響は明らかになっていませんでした。

そこで私たちは、ブルーライトを細胞に照射できる特殊な装置を用いて、ブルーライトが角膜幹細胞に与える影響を検討しました。
研究の結果、角膜幹細胞にブルーライト照射することにより炎症性サイトカインであるIL-1βの発現量が上昇し、細胞生存率が低下することが明らかになりました。
さらに、目薬の有効成分である硫酸亜鉛水和物が、IL-1βの発現上昇、細胞生存率の低下を抑制し、ブルーライトによる炎症から角膜幹細胞を保護することを発見しました。

今後さらなる普及が予想されるデジタルデバイスがもたらす眼の不快症状を改善する目薬の開発を行っていきます。

目の乾きに対する多角的なアプローチ

コンタクトレンズ装用時の摩擦による目の乾き

細胞への摩擦刺激によるIL-8のmRNA発現量/MUC16のmRNA発現量の変化とポリビニルピロリドン(PVP)による効果

細胞への摩擦刺激によるIL-8のmRNA発現量/MUC16のmRNA発現量の変化とポリビニルピロリドン(PVP)による効果

目の乾きには、コンタクトレンズ(CL)、パソコン、エアコンの3つの「コン」が関わっているといわれています。
CL装用時に感じる眼の乾きの原因の一つは、まばたきをすると生じるCLと角膜と結膜表面における摩擦です。この摩擦が眼にとって刺激となり、CL装用時における眼の乾きが起きると考えられていますが、詳細なメカニズムは分かっておりません。

そこで私たちは、摩擦刺激のモデルとして水流負荷を角膜上皮細胞に与えることができる装置を導入し、摩擦が角膜を刺激するメカニズムを解明する研究を行いました。
研究の結果、摩擦の刺激は炎症性サイトカインであるIL-8を増加させることと、涙液をつなぎ留めておく働きを持つ膜型ムチンであるMUC16の発現量を減少させる事を明らかにしました。
この結果から、摩擦が眼の乾きを引き起こすメカニズムとして、角膜上で炎症を引き起こし、角膜の水濡れ性を低下させるためと考えられます。さらに、目薬の有効成分であるポリビニルピロリドンは、摩擦によるIL-8の発現上昇を抑制することと、MUC16の発現低下を抑制することを発見しました。

今後も私たちは、CLの装用時の眼の乾きに効果的な目薬の開発に向けて研究を行っていきます。

安定した涙液層を形成するための製剤技術開発

眼の表面を覆っている涙液は、水層と油層の2つの層から構成されています。その涙液層が不安定になると、乾燥や痛み、疲れなど眼の不快症状を引き起こします。
そこで、涙液の「水層」「油層」を安定化させる研究に着手しました。

これまで長い間、目薬に油性成分を配合するための「溶解剤」として界面活性剤を配合してきました。一方、スキンケアのカテゴリーの製剤化での界面活性剤の用途として、油/水の乳化はもちろんのこと、使用感の向上や浸透性など様々な技術が研究されていたため、それらの技術と成分を目薬開発に転用できないかを検討しました。
その結果、涙液安定化に最適な界面活性剤の種類や比率を見出しました。

従来の考え方である油を溶かす「溶解剤」としてでなく、点眼後の「涙液の安定化」のために配合することで、乾燥などの不快症状に悩む方に最適な目薬の開発が可能となりました。

花粉症、アレルギーへの対策

アレルギー性結膜炎に関する研究

2種類の炎症メカニズム

2種類の炎症メカニズム

炎症条件下におけるGK2/PPFの肥満細胞の脱顆粒率(a)及び好酸球炎症性サイトカイン(エオタキシン)生産量(b)の変化

炎症条件下におけるGK2/PPFの肥満細胞の脱顆粒率(a)及び好酸球炎症性サイトカイン(エオタキシン)生産量(b)の変化

アレルギー性結膜炎による目のかゆみや充血の原因の一つは、花粉やハウスダストなどの抗原によるアレルギー反応によって起こる炎症です。炎症には、抗原侵入直後に起きる「即時的炎症」と、即時的炎症に続いて起きる「持続的炎症」の2種類が関与しています。
前者は抗原を認識した肥満細胞が脱顆粒を起こすことで生じ、後者は好酸球が炎症部位に集積し炎症性サイトカインを放出することで生じます。

アレルギー性結膜炎用の目薬には、複数の抗炎症成分が配合されています。その成分の一つとして、グリチルリチン酸二カリウム(以下GK2)がありますが、抗炎症作用の詳細なメカニズムは分かっていませんでした。
私たちは、ヒト結膜線維芽細胞にサイトカインであるIL-4およびTNFαを添加した炎症条件下にて、GK2が炎症性サイトカインであるエオタキシンの産生を抑制することを確認し、炎症の中でも持続的炎症に作用することを発見しました。また、プラノプロフェンは脱顆粒を抑制し即時的炎症に有効であると発見しました。

この知見をもとに、アレルギー性結膜炎に有効な目薬の開発に取り組んでいます。

目薬のさし心地の追究

使いやすさの工夫と使い心地の追究

こだわりを詰め込んだ容器

こだわりを詰め込んだ容器

メントールによって活性化された痛み受容体(TRPA1)を抑制する成分の探索の結果

メントールによって活性化された痛み受容体(TRPA1)を抑制する成分の探索の結果

私たちは、お客様に長くご愛用いただきたいという思いから、使いやすさや使いごこちを追求しています。

使いやすさの工夫として、例えば、目薬では、指や手の力が強くない高齢の方やお子様でも、開けやすくかつ閉めやすい「ワンタッチ式スクリューキャップ」、首を上に大きく傾けずに楽な姿勢でご使用いただけるように、どんな角度からでも目薬が滴下できる「フリーアングルノズル®」、そして洗眼剤では、上を向かなくても下向きのままで眼がすっきり洗える「イージーカップ®」を採用しています。

一方、使いごこちを追求した目薬の例として、気持ちよさを数値化した「スマートクールテック®」があげられます。
目薬に含まれるメントールなどによって、目薬を眼に滴下した際に爽やかな清涼感がありますが、人によっては刺激を感じることが課題となっていました。そこで、眼の表面にある感覚受容体の一つである「痛み受容体」に着目して、その活性化抑制成分を研究して配合することで、刺激感の少ない目薬の開発が可能となりました。

新たなチャレンジ『目を再生する』を目指して

iPS細胞を用いた角膜上皮細胞への分化誘導に関する研究

ラミニンアイソフォームを利用し、ヒトiPS細胞から眼に関連する種々の細胞への分化制御が可能

ラミニンアイソフォームを利用し、ヒトiPS細胞から眼に関連する種々の細胞への分化制御が可能

ラミニンアイソフォームの細胞特異的接着能を利用することで、ヒトiPS細胞から誘導された角膜上皮細胞を精製できる

ラミニンアイソフォームの細胞特異的接着能を利用することで、ヒトiPS細胞から誘導された角膜上皮細胞を精製できる

iPS細胞は2006年に初めて作られた、ほとんどすべての細胞へ分化誘導することができる多能性幹細胞の1つです。受精卵から作られる同じ多能性幹細胞の1つであるES細胞と比較し、倫理的問題を解決できることから、近年、特に日本を中心にこのiPS細胞から誘導された細胞、組織を再生医療として患者さんに移植し、病気を治療する臨床試験が行われています。
私たちは大阪大学との共同研究により、眼に関連する細胞、特に角膜上皮細胞へのiPS細胞からの分化誘導に関する研究を行ってきました。

これまで、培養皿のコーティングに用いる基底膜タンパク質ラミニンの種類がiPS細胞の眼の細胞への分化過程における運命決定に寄与していることを明らかにしました。本成果により、iPS細胞の足場による運命決定制御機構や眼の発生機序の解明、さらには角膜再生医療実用化に向けたiPS角膜上皮細胞の作製効率化が期待されます。

さらに、iPS細胞から作製した様々な眼の細胞を含む細胞群から、角膜上皮細胞のみを純化する新たな方法も確立しました。本成果により、PS角膜上皮細胞シート移植治療の普及や産業応用に向けたiPS角膜上皮細胞の単離法・細胞シート製造の簡便化・効率化・コスト削減等が期待されます。