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PART2 再生医療の鍵を握る“幹細胞”実用化が進む“脂肪幹細胞”

他の細胞に変化する母なる細胞

再生医療の鍵を握るといわれるのが「幹細胞」。私たちの体は60兆個の細胞で構成されており、その細胞を生み出す元となる細胞が幹細胞です。体のいたるところに存在して各臓器や血液、皮膚などをつくり出しています。幹細胞には二つの特出した能力があり、一つは、自分と全く同じ細胞を複製することができる能力(自己複製能)で、幹細胞を長期に渡り維持することができるというもの。もう一つは、様々な種類の細胞へ分化する能力(多分化能)で、これにより病気やケガで組織がダメージを受けても幹細胞が新しい細胞を生み出し、その組織は再生すると考えられています。現在、再生医療を見据えた研究が進められている幹細胞は主に三つに分類されます。①受精卵からつくられる幹細胞で、すべての細胞になる能力がある「ES細胞(胚性幹細胞)」、②皮膚など体細胞から取り出した細胞に特定の遺伝子を入れて樹立したもので、ES細胞同様にあらゆる種類の細胞になれる「iPS細胞」、③生体の各組織にあり、特定の細胞に分化する能力を持つ「体性幹細胞」です。

幹細胞の種類

ポテンシャルが高い 脂肪幹細胞

脂肪幹細胞の分化
脂肪幹細胞は、脂肪組織だけでなく骨や軟骨、心筋細胞、また血管を形づくる細胞に分化する能力も保持しており様々な組織への再生医療の応用が期待されている。

これらの幹細胞の中で、実用化という面で最も進んでいるのが体性幹細胞です。人工的につくられるES細胞やiPS細胞と異なり、体性幹細胞は私たち自身の体内で実際に働いています。例えば、赤血球や白血球・血小板など血液の細胞をつくる「造血幹細胞」、神経細胞をつくる「神経幹細胞」、骨・軟骨・脂肪・神経など様々な組織をつくることができるとされている「間葉系幹細胞」などがそれです。

従来、体性幹細胞の一つ、間葉系幹細胞の中の骨髄由来間葉系幹細胞(以下、骨髄幹細胞)の研究が最も多くなされてきましたが、2001年に脂肪組織中から間葉系幹細胞が発見されると、骨髄幹細胞の100〜1000倍もの幹細胞を比較的容易に確保できること、また、骨髄幹細胞が持つ、骨・脂肪・軟骨等へ分化する能力も併せ持っていることなどが証明され、現在は脂肪幹細胞による研究が多く行われています。脂肪幹細胞の主な働きには、創傷治癒・分化・免疫調節・新生血管形成などが挙げられ、すでに糖尿病や心筋梗塞・脳梗塞・肝機能障害・アレルギー疾患など、様々な病気に対する治療への適用が試みられており、脂肪幹細胞は、様々な疾患治療への応用が期待されています。