ロートグループは、生物多様性が生み出す、貴重な自然の恵を利用し、事業活動を行っています。さまざまな生物が共存できる環境となるように配慮した事業活動を行ことが、私たちの重要な責任です。当社グループは、生物多様性保全に関する方針を明確にし、グループ全体でステークホルダーの皆様とも協力しながら、生物多様性に関する社会的責任を果たすことを通じて、持続可能な社会の実現に貢献します。
生物多様性方針
当社グループは、全ての事業活動が自然環境から恩恵を受け、また自然環境に影響を与えていることを認識し、自然環境との調和を図り、持続可能な社会のために生物多様性の保全に取り組みます。
- 当社の事業活動が生物多様性にどのように関わり、また影響を与えているかの把握に務め、影響の回避・最小化に取り組みます。
- 事業活動を行う地域の生態系に配慮した事業活動に努めます。
- 生物多様性に配慮した製品や技術の開発を推進し、環境保全に努めます。
- 生物多様性に関する社員の意識の向上に努め、関連する多様なステークホルダーとの連携や協働を通じて、環境保全活動を支援・推進します。
- 生物多様性に関する国内外の取り決めや法令を遵守します。
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に基づく対応
当社グループは、2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された、2030年までの世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に基づく「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を支持しています。2025年4月には、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の最終提言(v1.0)に賛同を表明し、TNFD
Adopterとして登録しました。
自然資本・生物多様性に関する情報開示・ガバナンスについて
当社グループは、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に基づき、「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」の4つの視点から、ステークホルダーへの情報開示に向けた取り組みを開始しました。自然環境との調和を目指し、持続可能な社会の実現に向けて、グループ全体で引き続き生物多様性の保全に取り組んでまいります。
また、当社は2021年9月にサステナビリティ委員会を設置し、気候変動や自然資本に関するリスクおよび機会について協議し、取り組み方針を決定、その方針をグループ全体に展開する体制を整えています。取締役会は、その検討・協議内容について報告を受け、当社グループの気候変動および自然資本への対応について、ステークホルダーへの情報開示および対話、長期的視点に基づく資本支出計画の検討を行い、さらに実行段階での監督を担う体制を構築しています。
戦略(TNFD枠組に基づく評価の実施)
当社グループは、事業活動における自然資本への依存および影響、ならびにそれらに起因するリスクと機会について、財務面へのインパクトも考慮しながら、ダブル・マテリアリティの考え方に基づき、自然関連課題が当社グループの事業活動に与える影響(財務的マテリアリティ)と、事業活動が自然環境に与える影響(インパクト・マテリアリティ)の双方を捉え、TNFDが推奨するスコーピングおよびLEAPアプローチに沿って体系的に評価を実施しています。
*LEAPアプローチ:自然関連のリスクと機会を体系的に把握・評価する手法であり、Locate(発見する)、Evaluate(診断する)、Assess(評価する)、Prepare(準備する)の4つのフェーズから構成されています。
1. スコーピング(分析対象の明確化)
当社グループは、事業活動がサプライチェーン全体を通じて、自然資本に依存し、また影響を及ぼしていることを認識しています。TNFDが推奨するリスク評価ツール「ENCORE」を用い、主要事業である医薬品および化粧品関連のバリューチェーンにおいて、上流(原料調達等)、直接操業、下流(廃棄・流通)それぞれの自然資本との関係を整理し、自然への依存および影響の両面から重要な要素を特定しました。
分析の結果、上流では植物原料(特に紙およびパーム油)および水資源への依存度が高く、直接操業および下流では水資源への依存と影響が相対的に大きいことが明らかになりました。その中でも、当社が直接的に管理・改善可能であり、自然資本への影響が顕著である「直接操業に伴う排水・廃棄管理」に焦点を当て、優先的に分析を実施しました。下流段階における顧客使用や製品廃棄に関しては、現時点ではデータ可用性や管理可能性の観点から分析対象外とし、今後のモニタリングおよびAssessフェーズでの検討領域として位置付けています。また、上流では原料調達に関してパーム油が森林破壊や人権問題などの社会的課題を含むことから、当社グループにとっての重要性および生態系への影響の大きさを踏まえ、原料調達における優先的リスクテーマとして継続的に対応を進めています。
これらの評価を通じて、当社グループは「水資源(上流・直接操業・下流)」および「パーム油(上流)」を最重要テーマと位置づけ、今後のTNFD対応およびリスク管理方針の中核として取り組んでまいります。
2. LEAP:
水資源
【Locate & Evaluate】自然との接点を発見および依存と影響を診断
当社グループは、事業活動において水資源に強く依存している一方、操業や排水を通じて地域の水環境に一定の影響を及ぼす可能性があることを認識しています。製造業としての事業特性上、水は生産・洗浄・冷却などの工程で不可欠な資源であり、その安定的な利用と地域社会との調和は、当社の事業継続における最も重要な要素の一つです。このため、財務的影響(依存)と自然環境への影響(インパクト)の双方を考慮し、診断を実施しました。
分析にはWWF Water Risk FilterおよびIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)の2つの国際的評価ツールを使用し、当社グループの全27生産拠点を対象に水資源に関する依存および影響リスクの両面から定量的に評価を行いました。
対象地域はアジア(日本、中国、香港、ベトナム、マレーシア、インドネシア)を中心に、欧州(オーストリア、ポーランド、イギリス)、南北アメリカ(アメリカ、ブラジル)、オセアニア、アフリカまでを含む多様な地域にわたります。
分析の結果、全体として「Low~Medium」水準のリスク分布となり、Highリスク拠点は確認されませんでした。一方で、香港、天津、ブラジル、インドネシア、ベトナム(2社)、オーストリア、および日本(三田)の8拠点、全体の25%がMediumリスクに分類されました。
今後は、Mediumリスク拠点を中心に、洪水・渇水・水質などのハイリスク項目を特定し、現地での環境実態調査や現地担当者ヒアリングを通じてリスク評価の精度を高めてまいります。こうした現地確認結果をもとに、事業・財務への影響度や発生可能性を整理し、Assessフェーズにおけるリスク管理方針および改善策の策定へとつなげていく予定です。
- 補足:分析手法およびスコア算出方法
- WWF Water Risk Filterでは、以下の2種類の指標を用いて評価を実施:
・Basinスコア:流域における物理・規制・評判リスク(依存リスク)
・Scapeスコア:生態系・土地利用・生物多様性リスク(影響リスク)
- WWF総合スコアは、Basinを0.6、Scapeを0.4の重みで統合して算出。
- IBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)による保護地域・重要生物多様性地域(KBA)・絶滅危惧種分布などの地理的リスク情報を補完的に反映。
- WWF総合スコアに0.8、IBATスコアに0.2の重みを付与して最終的な統合スコアを算出。
- 統合スコア区分:High(3.0以上)/Medium(2.5~2.99)/Low(2.49以下)
- 使用ツール
- WWF Warter Risk Filter、WWF Bioddiversity Risk Filter
- IBAT
パーム油
【Locate&Evaluate】自然との接点を発見および依存と影響を診断
当社グループでは、バリューチェーン上流における原材料調達の中でも、パーム油を自然資本への依存が高い原料かつ影響の大きい素材と位置づけています。
パーム油は多くの製品で使用され、供給面では原料調達の安定性に依存する一方で、調達過程において森林破壊や生物多様性の喪失、人権問題など自然および社会への影響が懸念されています。このため、TNFDのLEAPアプローチに基づき、依存と影響の両側面から自然との接点および関連リスクを特定し、評価を行いました。
まずLocate(自然との接点の特定)では、ロート製薬本体におけるパーム油の原産国および年間調達量を特定しました。
その結果、マレーシア産69%、インドネシア産17%、その他14%であり、両国における依存度の高さを確認しました。
これらの地域は、森林資源および生物多様性の観点から、当社グループにとって特に重要な原料供給地域です。
次に、Evaluate(依存と影響の評価)では、WWF Water Risk Filterの分析ツールを用い、パーム油の主要生産国であるマレーシアおよびインドネシアの主要4地域ずつ、計8地域を公的統計および関連報告書から特定し、それぞれの地域における自然関連リスク分析を実施しました。水資源リスク(Basin Physical/Regulatory/Reputational)と、森林・生物多様性リスク(Scape Physical/Reputational)を統合し、地域別の総合スコアを算出しています。その結果、対象8地域のうち**7地域が「高リスク」水準(スコア3.0以上)**と判定されました。特に、インドネシア(リアウ州、カリマンタン各州)およびマレーシア(ジョホール州、サラワク州)において、森林減少、泥炭地開発、水ストレスなどの複合的な自然関連リスクが顕著でした。
当社グループは、2024年6月にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟し、認証パーム油への切り替えを段階的に進めています。サステナビリティ目標「2030年までに認証パーム油100%調達」を掲げ、2023年度9.4%から2024年度には27.8%へと切り替えを拡大しました。今後は、パーム油を利用しているグループ各社を対象に、調達実態や管理体制に関するヒアリングを実施し、現地調達先のトレーサビリティ向上および環境・人権リスクの実態把握を進める予定です。
マレーシア・インドネシア両国を優先地域として位置づけ、現地調査や対話を通じ、地域の生態系保全と事業活動の両立を目指して参ります。また、当社グループはインドネシアで30年近く事業を展開し、生産拠点も有していることから、同国拠点とも連携しながら地域社会・生産者・行政との連携を強化し、サプライチェーン全体での持続可能な原料調達を推進していきます。
- 補足:分析手法および評価の概要
- WWF Water Risk Filterを用い、主要生産国(マレーシア・インドネシア)の4地域ずつを対象に分析。
- Basin Physical/Regulatory/ReputationalおよびScape Physical/Reputationalの5指標を統合して総合スコアを算出。
- 3.0以上を高リスク、2.5~2.99を中リスクと分類。
- RSPO加盟および認証油切替進捗(2023年度9.4%→2024年度27.8%)を反映。
- 今後はグループ各社へのヒアリング・現地調査を通じ、トレーサビリティおよび地域連携を強化。
- 出典:
Malaysian Palm Oil Board(MPOB)『Malaysian Oil Palm Statistics 2023』、
Badan Pusat Statistik(BPS)『Indonesian Oil Palm Statistics 2023』、
Gabungan Pengusaha Kelapa Sawit Indonesia(GAPKI)公表資料、
WWF Water Risk Filter(Basin・Scape指標)
- 分析ツール
紙資源
当社では、紙資源の使用量を削減をしていくとともに、使用に際しては森林認証紙や再生紙など、環境に配慮した紙を使用していく方針を制定しました。製品の包装、販促ツール、会社案内などの冊子、オフィスで使用する紙等を、順次森林保全に配慮した紙に切り替えています。
パーム油
アブラヤシから採取される植物油であるパーム油は、化粧品原料(脂肪酸やグリセリン)としても用いられていますが、近年農場開発に伴う熱帯雨林の破壊や農場労働者の人権に関するさまざまな問題が起こっています。当社では、持続可能な原料を選択し
調達することを目標に掲げ、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟しました。引き続き取り組みを進めていきます。
マイクロプラスチックビーズへの対応
洗浄料などの洗い流し用製品に配合されている原料のマイクロプラスチックビーズですが、昨今、海洋汚染など環境面への影響に関する懸念が国内外で指摘されています。当社では、洗浄料へのマイクロプラスチックビーズの新たな配合を2010年に中止し、2016年には既存の洗浄料に関してもマイクロプラスチックビーズを含まない商品への切り替えを完了しています。
サンゴの保全
近年、日やけ止め製剤に配合されている特定の成分によるサンゴの死滅や海洋生物への影響が問題視されています。当社では、海の汚染やサンゴの死滅の一因として懸念されている成分を配合していない日やけ止めの開発を行い、2022年に発売、また沖縄地域を中心に啓発活動を実施しました。
実際の化粧品製剤のサンゴへの影響を評価するグローバルスタンダードが構築されていないことを課題と捉え、㈱イノカと共同研究にてコモンサンゴ属、ミドリイシ属の生育について、製剤の影響評価方法を新たに確立しました。今後、日やけ止めに限らず化粧品製剤の影響評価に活用できるとともに、より環境に配慮した製品の開発につなげていくことが期待できます。